渡辺健主演「怒り」を観てきました。見終えると、頭の体操をしたような、不思議な爽快感ある映画でした。

今日は李相日さん監督、渡辺健さん主演映画

 『怒り』

をご紹介します。

上映開始は9月17日からということで、
かれこれ一月ほど経ちます。

映画館のポスターなどで、
『怒り』
という覚えやすいタイトルの映画が
上映されることは知っていました。

きっと予告編も見たはずですが、
あまり覚えていません。

唯一覚えているのは、
渡辺健さん宮崎あおいさんという、
私の好きな俳優さんが出演していること位です。


↑このイメージしか記憶にないもので・・

いつもであれば、
無条件で見る映画ですが、
どうも食指が動かず、
今回はスキップする予定だったのですが、

たまたま見たテレビで、
『怒り』は面白かった。と会話していたのを聞き、
週末に映画館に足を運んだ次第です。


映画の冒頭、
ドローンかなにかで撮影したような、
夜の郊外の町並みが映し出されます。
どこかでみたような画だなぁ〜と思ったら、
次に血だらけの残忍な
殺人現場のシーンになるわけです。

明日から会社だ。頑張ろう。!
という日曜の晩に、
あまり好んで見たいシーンではありません。
夢に出てきたら大変です。

そういえば、殺人映画だった気がする。
などと、今更思い出します。

できるだけ殺人シーンは最小にして欲しいと
願う訳ですが、最後の最後まで殺人シーンが
出てくる映画でした。(^_^;)

そしてこの後で出てくるのが、
妻夫木聡さんと綾野剛さんの、

ホモプレイ映像です。

個人的に全く見たくないカットなのですが、
これも映画。勉強勉強。
と思いながら画面を見つめます。

女性が見たら、
ボーイズラブとかいう少女マンガの実写版でしょう。
お二人が美形なのが唯一の救いですが、

周りで撮影する方々は
どんな感覚なのかと思います。
仕事が忙しくて気にならない。とか。?

それにしても役を選ばないこのお二人の演技に感心します。
凄すぎる!

映画の中心部に入る前には、
こうした説明はどうしても必要なのです。
無ければないで物足りないこと間違い無いのです。

しかし、PG12指定となっていますが、
小学6年生ではキツイ映画だと思います。

・・とこの後も、
いつものように物語を知らずに見ています。

映画では
妻夫木聡さん、綾野剛さん、原日出子さんが演じる東京編
渡辺健さん宮崎あおいさん、松山ケンイチさんが演じる千葉編
森山未來さん、広瀬すずさん、佐久本宝さん演じる沖縄編

の3つのストーリーが同時に展開されます。
画面の切り替えが良く、編集の上手さを感じます。

しかし私は映画を見ながら、
宮崎あおいさんの若い頃を広瀬すずさんが演じていて、
不幸な事件が起き、その後メンタルがいかれてしまったのかと
最後のほうまで思いながらずっとみていたのですが、
映画を終わってみれば、全く関係のない人達でした。

映画では○×編とか具体的な説明はありません。
映画を見終えた後、ネットで解説を見て知りました。

勝浦に行ったとか、那覇へ行くとか、銀座で見かけた。
などの地名を含むセリフによって、辛うじて場所を
推測した程度です。
ですから、勝浦が千葉県と分からなければ、
何処の港町なのかよくわからない映画です。

ストーリーは
1年前に八王子で起きた殺人事件の犯人がどこかに潜伏しており、
犯人とよく似た特徴を持つ3人の男がそれぞれの町で暮らしています。

綾野剛さん演ずる男には、
犯人と同じ3つ並ぶほくろがあり、
松山ケンイチさん演ずる男には、
警察が発表した防犯カメラ映像の人物と背格好が似ています。
そして森山未來さん演ずる男には、
同じく警察が発表した整形前の犯人の写真とにているのです。

それぞれの町で、
3人には友人ができたり、
恋愛関係となったりするのですが、

犯人が映し出されるテレビ番組を見て、
不安になったり、彼を疑ったりするのです。

私は、もしかして犯人は3人か。
と勘ぐったりもしたのですが、
実際に犯人は3人のうち1人しか居ないわけです。
残る2名は要するに、
えん罪というか、無実を疑われた人達です。

映画では、罪のない友人や恋人を疑った人が
信じることが出来なかった自分に後悔し、
そして自分を怒っているのが、
この映画のもっとも大切な部分と思います。

人を信じることは難しい。
ということを観客に訴えかけてきます。
と同時に、
信じて裏切られることと、
疑って間違うことのどちらが辛いか。
そういった事もいやおうなしに考えさせられます。


東京編では、
偶然であった住所不明の男(綾野剛さん)に
IT企業勤め(らしいです)の男(妻夫木聡さん)が出会い、
一目で恋をするわけです。

妻夫木聡さん役の男には、
ガンで余命僅かの母親がおり劇中で死んでしまうのですが、
その墓に一緒に入ろう。みたいな会話をするにもかかわらず、
綾野剛さんを犯人ではないか。と疑ってしまいます。

住所不明の男は、本当は孤児院の出身でした。
そして子供の頃から胸に病をもっていて、
ある日突然死んでしまうのです。


千葉編でも、出所不明の男(松山ケンイチさん)に、
渡辺健さん演じる父親の娘(宮崎あおいさん)が恋をします。
宮崎あおいさんは、智恵遅れというか、
そんな感じの若い女性を演じており、
父親は愛する娘が、結婚し子供(孫)ができる。
みたいな普通の幸せが掴めないことを心配しています。

コレぐらいの年頃の親子は、
喧嘩ばっかりしてそうですが、
この2人は信頼関係があって、仲も良く、
ある意味羨ましい親子像です。

しかし、殺人犯と似ていることを知った娘は、
松山ケンイチさんが外出したあと、
ガマンできずに警察に電話をしてしまいます。
要するに気持ちは子供なのですが、
見ている私は辛くなります。

一方沖縄編では、無人島に住む森山未來さん演じる
バックパッカーに、広瀬すずさん演じる女子高生が
興味を持ってしまいます。

旅人に恋する村娘。まさにそんな雰囲気満々で、
一目見て危ないです。
この男に広瀬すずさんが殺されてしまいそうな
オーラが出ているのですが、
そんな展開にはなりませんでした。

その後、男(森山未來さん)は、
ペンション経営をする、広瀬すずさんの男友人
(佐久本宝さん)の家でバイトをすることになります。

そんな中、女子高生と男友達が、那覇に遊びに行き、
沖縄の米兵に襲われる事件が起きます。
ビビって事件を遠くで見ていた男友達でしたが、
バックパッカーの男は、彼の心の支えになると言います。
しかし、映画なのでこの先どんでん返しが待っています。

米兵にレイプされるシーンでは、
少し政治的な臭いを感じました。
それにしても、ホモプレイと良い、レイプシーンと良い、
殺人シーン以上に衝撃的なシーンが多すぎます。

広瀬すずさんの(年齢で演ずる)レイプシーンは、
いかがなものかと思うのですが、
彼女はちゃんと演じていました。
役者さんというのは大変な商売だと再び感じます。

結局映画は、
1人の犯人を巡って、
3つのストーリーが平行に展開され、
そして最後に犯人の種明かしがあり、
さらにどんでん返しが加わって幕を閉じます。

タイトル『怒り』はそれらを横串で通していて、
3人の男たちとその相手、
加えて佐久本宝さん、渡辺健さん
主要人物の殆どが「怒り」を抱えている。
というのがこのシナリオの上手いところです。

殺人犯でさえ、動機は、
誰に向けたらいいのかわからない「怒り」です。

しかも発作的なもので、
私は殺人犯というよりも精神疾患に思えました。
悪人というよりも、心の病を抱えています。


渡辺健さん演じる父親も、
街の人達の娘に対する態度に怒っています。
どんなに父親が頑張っても
悪いのは娘になってしまうというのです。
そして娘の好きになった男(松山ケンイチさん)を
信じ切れなかった自分と娘にも怒っています。

広瀬すずさん演ずる女子高生はさらに複雑です。
米兵に襲われ、好意をもった相手が殺人犯となる訳です。

そんな怒ってばっかりの映画を見終わって感じたのは、
あまり見たくないシーンが多かった割りには、
妙な爽快感があったことです。

想像を巡らすという頭の体操をしたためか、
広瀬すずさんを見たためなのか
良くわからない不思議な感じでした。


映画『怒り』は、
吉田修一さんの小説『怒り』(中央公論新社刊)が原作です。
長い小説を上手くまとめている。
というコメントを読みました。
小説版の解説ページ(以下勝手にリンクします。)

を読んで、なるほど!
映画の後ろにこのようなシーンがあったのか。
と思いました。
これを読むと確かに映画だけ見ても違和感がないので、
上手くまとまっているのだな。と思います。


そして映画の素晴らしいところは、
なんといっても役者さんの演技です。

主演渡辺健さんの漁港のおじさん役は、
もの凄くハマっています。
ブロードウェイで『王様と私』の主演を
つとめた俳優さんとは思えない幅の広さです。
無精髭の感じといい、
おじさんのよれよれ感あるシャツといい、
軽トラを乗るシーンと言い上手いです。

ブロードウェイ俳優が軽トラに乗るのは、
日本だけ。と思いますが。(笑)

そして娘役の宮崎あおいさんがいいです。
若干知的障害な感じの女性(恐らく20歳前後と思う)
を演じています。
さすがに20歳には見えないのですが、
普段の半分ツンというか切れたような演技ではなく、
優しい感じの女性を演じておりまして、
こんな役柄もできるのだな。と妙に感心しました。
冒頭少しだけ風俗嬢の役をしているのですが、
ファンにはたまりません。
今回宮崎あおいさんは、役作りのため7キロ太った
のだそうです。(その後10キロやせたとか)
いつもと少し顔が違うのはそのためだったのですね。

そんな二人をあっさり超越してしまうのが、
やはり妻夫木聡さんと綾野剛さんのカップルでしょう。
ホモ俳優として歴史に残らねば良いのですがと心配です。

最後に森山未來さんの個性的な演技が光って居ます。
良い人、悪い人の両面を演じているのですが、
目つきの善し悪し、体の動き方、
悪い人の時には、悪い人のオーラが出まくっていて、
この方の演技は凄いとしかいいようがありません。


という訳でそろそろ締めたいと思うのですが、
映画の最後は、妻夫木聡さん、宮崎あおいさん、
広瀬すずさんの、怒り顔で終わります。

このシーンが良かったという
ネットのコメントも多く読んだのですが、
私個人的には、特に広瀬すずさんの顔は
笑っているようにも見えました。

笑顔の元は、怒って威嚇する顔だった。
という説があることを思い出しました。


オムニバスという訳では無いのですが、
怒りをテーマにしたオムニバス的要素の強い映画です。
どキツイシーンも多く刺激の強い映画ですが、
なんとも言えない充実感があると感じた今日の一本です。


追伸)
音楽が坂本龍一さんです。
不安定な気持ちの中に、安定感した部分を感じる
音楽と思うのですが、
おどろおどろしく無く、映画の演出に大きな
役割を果たしていると感じました。

http://www.ikari-movie.com


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