松田龍平主演映画「船を編む」は、辞書作りの苦労がわかるプロジェクトXのような映画だと感じました。

子供の頃から疑問に思っていたことのひとつに、
「辞書(辞典)」をどうやって作るのか?
ということがありました。

どんな言葉でも知ってそうな、
偉い国語の先生がいる事は想像できるのですが、

その人達が辞書に掲載される、
何万語、何十万語もの言葉の説明を、

ひとつひとつ、
説明分を書いていることが想像できないのです。

しかしその疑問は本日、
ようやく謎が解き明かされたのでした。


・・という訳でさきほど、
映画「船を編む」を観てきたのでご紹介します。

松田龍平さんと宮崎あおいさんの主演映画で、
お二人とも好きな俳優さんなので、
前々から見たいと思っていました。

原作は昨年(2012年度)の本屋大賞を受賞した、
三浦しをん”さんの同名小説です。


ちなみに2010年の本屋大賞の受賞作品
天地明察(1位)」と、
神様のカルテ(2位)」は、
どちらも宮崎あおいさん出演で映画化されています。

私の場合、宮崎あおいさんが大好きなので、
彼女が出演する映画は、基本的には観る訳ですが、

しかし「天地明察」だけは油断した隙に、
上映が終わり見逃してしまいました。(汗)


さて、映画「船を編む」は、
新しい辞書を企画し出版に至る、
出版社の辞書編集部の様子を映画化したものです。

冒頭にも書きましたが、
私個人的に、この映画を見て、はじめて、
昔からの疑問だった、辞書作りの方法を知りました。

その辞書作りの段取りを要約すると、

最初に、用例採集といい、

様々な辞書やラジオやテレビから流れる会話、
街のポスターやファーストフードでの会話、

・・それら至る処から言葉の素を、
手書きのカードで集め意味を書き出します。

次に、見出し語選定といい、
集められたカードから辞書に載せる単語を選びます。

そのあと、言葉の説明や用例をひたすら修正し、
5回の校正を経て、ようやく辞書の原稿が作られてきます。

辞書作りは何年もかかりますので、
その間もどんどん新しい言葉が生まれ、そして消えて行きます。
それらを丹念に選び捨て去っていく訳です。

そして、映画を見る限り、
辞書作りは、本当に全てが手作業で、
・・驚きました。


映画の登場人物は、

歳を取っても、常に情熱的に言葉の世界を探求し続ける、
加藤剛さん演じる言語学者(と思う)、

辞書製作一筋42年の編集者で、
定年退職するも、再び嘱託として戻り
辞書作りを手伝う年配社員を演じる小林薫さん、

なんとなく辞書部に配属されてしまった、
若手社員を演じるオダギリジョーさん。

編集の専門職であり、派遣社員
演じる伊佐山ひろ子さん。

そして、大学院では言語学を学び、
出版社の営業部に配属されるも、
コミュニケーション力が足りないことから、
仕事が上手くいかなず、
辞書部に異動と成る主演松田龍平さん。

この5名が辞書製作の主なメンバーです。

個性的でまとまり感の無い4名に思えますが、
出版業とは畑違いの私が観ても、
会社の縮図のように思えました。

会社では、
歳を取っても精力的に仕事をする人が居れば、
定年と言って会社を去る人もいます。

個人の性格や特性に合っていない
仕事を続ける人も居れば、
まったく仕事ができない若手も沢山居るわけです。

辞書製作は儲からないと、
途中で止められそうになったり、

コスト削減のため人が減らされたかと思えば、
他部署から全く訳の解らない人が
島流しのようにやってきます。

度重なる校正で、
言葉の転記漏れを発見したり、

・・・幾多のトラブルと苦労を乗り越え、
それでも辞書製作は完成に向けて進んで行くのです。


映画は1995年の設定からはじまります。
これが一つの見所です。

この年は私が社会人になった年なのですが、
Windows95という有名なOSが発売された
年でもありました。

このあたりからパソコンやインターネット、
携帯電話などが爆発的に普及していくわけです。

映画では、今はなきNECの有名パソコン、
PC98(デスクトップ型)が使われ(しかも綺麗)、
大きな文字でエクセルが動き、
昔懐かしい携帯電話が登場します。

これは、余談の余談ですが、

(何万もの)リストを印刷して。

というセリフがあったのですが、
当時のエクセルは2万行が上限だった気がします。
つまりリスト印刷ができないのではないかと・・。

いずれにせよ、よくこんな古いパソコンを
探してきたもんだ。
・・と感心です。


よく探してきたと言えば、
舞台と成る出版社「玄武書房」も良く探して
きたと思います。

近代的なビル(新館)と辞書部がある、
戦前からありそうなビル(旧館)が並ぶ場所が
良くあったものです。

詳しくは解りませんが、
東京の神保町3丁目と看板が出ていた気がします。

さらに、よく探してきたと言えば、
松田龍平さんが住む、
(戦前から立ってそうな)下宿も凄いです。

以前観た宮崎あおいさんの「神様のカルテ」も、
似たような雰囲気の下宿(元は旅館)が
使われていましたが、

今時の東京で、
一歩間違えるとお化け屋敷になりそうな、
あの佇まいはたいしたものです。

1995年のシーンで唯一残念だったのは、
道路にプリウス(っぽい車)が走っていたことです。

せっかくなので、取り直しすれば良かったのに。。
・・・と思いました。
これはちょっと残念です。(汗)
(ま、些細な話しですが。)


映画は辞書編纂という、
至って真面目なドラマで、
途中までイマイチ面白みがありません。

私の大好きな宮崎あおいさんは、
いつ出てくるんだ。
・・という位待ち遠しかったです。

中秋の名月秋分の日頃)の満月の晩に、
青い薄明かりの中で登場するのですが、
演じる名前を「かぐや」といいます。

原作やストーリーを知らずに観ているので、
一瞬お化けか!・・と思います。

月夜の晩に、「かぐや」という名前も
いかにもですが、
戻ってホームページで確認すると、
香具矢とかいて「かぐや」でした。

また、松田龍平さん演じる編集社員は、
「馬締」と書いて「まじめ」と読んでいます。

いかにもな感じですが、
小説なのでOKでしょう。

それよりも、
超真面目人間、堅物人間の「馬締」さんが、
大した労もなく「香具矢」さんと相思相愛に
なってしまうのですが、

こういった恋に落ちるまでの描き方の薄さが、
良くも悪くも日本映画だと思いました。

もうすこし何か欲しいです。!

また宮崎あおいさんの役周りは、
神様のカルテ」と似た印象を持ちました。
宮崎あおいさんが必要だったのか?
・・といった感じです。

彼女の演技は何時も通りの一本調子なのですが、
更に、いつも以上に堅い表情だった気がします。
宮崎あおいさんを愛でる映画としては、
ちょっと残念かもしれません。)

そして彼女が出演する夫婦は今回も、
お互いを(なぜか)「さん」付けで呼び合います。

ただ、松田龍平さんの個性的な演技との
マッチングは良かったです。


さて映画では、
いきなり、10年位飛んで2008年になります。

松田龍平さんも宮崎あおいさんも、
登場人物は殆ど年を取った感じがしませんが、
小林薫さんや、加藤剛さんは年を重ねます。(笑)

そして加藤剛さん演じる、
辞書製作の中心の言語学者は、
辞書が完成する、
あと少しのところで亡くなってしまいます。

映画「船を編む」では、
辞書製作に15年という時間を設定していますが、
実際の辞書製作はさらに長い年月を要することも
あるようです。

その間どんどん人も入れ替わり、
辞書の完成を待たずに無くなる人も
多いのだと思いました。

お葬式の帰りと思わせるシーンの後、
宮崎あおいさんが作ったソバを食べながら
松田龍平さんが泣くのですが、

ココはもうすこし濃い演出があってもよかったのでは
ないかな〜。と思いました。

ところで、
宮崎あおいさんはソバをすする際に、
音を立てて居ませんでした。
そんなつまらぬところで感心してしまいます。
(録音漏れか?)


映画の途中で、
これからは紙の辞書から電子辞書になっていく。

といったセリフをオダギリジョーさんが云うのですが、

確かに、これからの辞書はWikiなどネットが
主流となっていくに違い在りません。

コンピュータが進化すると、
辞書製作は劇的に効率化すると思いますが、

その時に、
はたして、辞書をお金を出して買うか?
ということです。

今回の映画を見て思ったのですが、

辞書を作ると言っても、
そこには明らかな人の意思があるのです。

辞書にも本や雑誌と同じように、
出版物としての編集方針があり、

方針に従い、
様々な人達が協力しあいながら、
辞書が出来ていくのです。

例えば、
右左の右をどのように説明するか。
というテーマが度々登場します。

辞書によって説明の表現が違う訳です。

時計の針が進む方向とか、
今見ている辞書の偶数ページとか・・・、

映画「船を編む」では、
数字の10の0の方向と表現します。

言葉の正確さと云うよりも、
このような表現の違いが、

編集者の意思を持って編集された辞書の、
大事なポイントだと思いました。


辞書作りの指導・監修は、
最後のテロップをみると、
三省堂(と岩波書店)が協力しているようです。

両出版社の辞書には、
学生時代にお世話になっている訳ですが、

辞書というものが今後どのようになっていくか。
気になる所ではあります。

ネットがこれだけ進んでくると、
辞書製作という一つの仕事が亡くなりつつ
あるのではないかとも思います。


プロジェクトXに、恋愛と若者の成長を
絡ませたようなドラマではありますが、

辞書製作の謎がわかるきわめて真面目な
映画だと思いました。


舟を編む | アスミック・エース


追伸)
映画「船を編む」は、
この辞書製作を通じて、主演の松田龍平さんが、
編集者として成長していく物語でもあります。

朝から晩まで辞書製作一筋なのですが、

若いときに、
人生を捧げる仕事に巡り会えたのは幸せ。

と下宿のおばさんに言わせます。

まったくその通りだと思いますね。



★★★ ツィッターやってます! ★★★
   https://twitter.com/h6takahashi


今日のアクセス:159,428