「不毛地帯」をみました。

本稿を書くために、先ほど2回目を見終えました。
さて。。


主人公の”壹岐正”は、大本営参謀から戦後のシベリア抑留を経て、
伊藤忠商事に入社し、その後会長にまで上り詰めた、
瀬島龍三”氏がモデルと言われています。

タイトルの「不毛地帯」は、瀬島氏が実際に11年間ものあいだ
抑留され強制労働させられた、シベリアの(永久凍土)ことです。
シベリアの映像は、ドラマでは(初回を除けば、)途中に数度回想
シーンとして出てくる位で、実際のドラマの舞台は、主人公の
勤務先である、近畿商事(ドラマ上の企業)です。

商社という大企業や、国際ビジネスを取り巻く表裏様々な人間模様が、
「これでもか」という位の迫力で画面に映し出されます。

毎回引き込まれるストーリー、脇を固める原田芳雄さんや、岸部一徳さん
の演技は真に迫るものがあります。
キャッチコピーである「剥き出しの人間たち」は原田さん岸部さんらが
見事に表現しています。
(まるで、私が勤務する会社の偉いさんが怒鳴っているかのようです。笑)


坂本龍一さんが挿入曲を作っていますが、いかにもドラマな曲なので、
最初全く気づかず、このような曲も作るあたりが天才としか言い
ようがありません。
というかTVドラマの曲に坂本龍一を選んでいるあたりの気合いが、
他のドラマと一線を画しています。
(余談ですが、エンディングテーマ曲は原田芳雄さんが歌っているのか。
と勘違いしました。笑)

戦中やシベリアの映像はテレビと思えないぐらい良くできていますし、
建物や調度品もよくできています。
特に車のシーンが良く登場するのですが、昔の車が良くあったものです。
(新車のような117クーペとかべレットなど良く集めてきました。)


私がこのドラマに特に興味を持ったのは、主役の”壹岐正”のモデルが
瀬島龍三”氏だった点です。
瀬島氏を初めて知ったのは、「新・平成日本のよふけ※」という同じく
フジテレビの鶴瓶さんと南原清隆さんが司会をしていた番組に出演
していたのを見たからです。
※簡単に説明すると、現代日本を作ったような偉い人をゲストに迎え、
 話を聞くといった番組です。

シベリア抑留の話や、新聞の情報だけで、湾岸戦争の米軍の進行シナリオを
予想出来た話などは、未だに戦闘作戦のセオリーは大きく変わっていない
という点で驚きましたし、頭の冴え具合は、ただならぬ人物であることが
感じられます。
(ドラマ中でも中東戦争を予測をするシーンがありますが、
商社でも軍事知識を活用するシーンは多々あったのだと推測されました。)
鶴瓶さんと南原さんも感心していたのを良く覚えています。

その後、瀬島氏に興味を持ち、氏の著書を読んだりしたのですが、
一方軍事評論家や歴史家の瀬島氏の評価は必ずしも良くありません。
瀬島氏は、大参謀の一員として、様々な作戦の命令書に印を押した人物でも
あるのです。

なお、瀬島氏は、同じく山崎豊子原作のJALを舞台にした「沈まぬ太陽
でも、ジャンボ墜落後の社長を選ぶ歳の重要人物としても登場します。

話はドラマに戻りますが、ドラマのシナリオで唯一気になる点は、
こんな瀬島氏がモデルと成った壱岐正は、小雪さんと恋仲になったり、
天海祐希さんに好かれたり、といった女性関係を巡るシナリオです。
絶対にあり得ないと思いました。
(他に気になったシナリオは、あるのですが、ドラマなので許せます。)


さて、原作は1973〜78年に発表ということですから、
実に40年近くまえということになります。
フジテレビ開局50周年記念番組の木曜ドラマ最終枠として放映されましたが、
この枠は

 「風のガーデン倉本聰演出、中井貴一主演」、
 「ありふれた奇跡山田太一演出、仲間由紀恵主演)

と力が入っています。
どちらも拝見しましたが、
風のガーデン」は、緒形拳さん最後の作品になってしまい話題となりました。
ドラマも面白かったと思います。(視聴率は15%前後)
ありふれた奇跡」は、大好きな仲間さんが出ているので見ましたが、
ちょっとぱっとしないドラマでした。(視聴率10%前後)

これに対し、「不毛地帯」は視聴率11%前後です。
しかし、つまらなかったかというと、そんな筈は無く、過去2作品に比べると
別次元の力の入れようが感じられたドラマであることは、初回をみて、即分かりました。
少なくとも最近見た民放TVドラマでは、最高レベルだったと思います。

しかし、真面目で良くでき過ぎているせいか、逆にこのドラマを見たあと、
何をどうすれば良いんだ。といったストレスが生まれてしまったことも事実です。
このドラマは笑いもなければ、スカッとした爽快感も得られません。
例えば、技術屋が技術を追い求めすぎた商品のようになっており、
視聴者は、ドラマをドラマとして見ることが求められます。

つまり見る側にも技術が必要な訳で、敷居が高くなってしまったのです。
視聴率が意外と低かったのはこのためでしょう。

私も何回目かに、”ドラマをドラマとして見る”に気づきました。


最後に、フジテレビが50周年記念番組として、この原作にした理由はなんでしょうか。
不毛地帯」のホームページの小雪さんのインタビューに答えらしきものがあった
ので紹介します。

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もしかしたら、こういう作品はもうないかもしれません。
そうかもしれないですね。でも、本当はこういうドラマを作っていくべきだと思いますし、
実際、若い世代の方が、自分たちの国がどういう歴史をたどって、どういう風に経済が
発展していったのか、というようなことを知るべきだとも思うんです。
参考URL http://www.fujitv.co.jp/fumouchitai/interview/index.html
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最近の不況により、放送業界が厳しくなっている話を耳にするたび、
このような質の高いドラマがこれからも作られることを望み、
今日の文章をしめたいと思います。