「凄い時代 勝負は2011年」を読みました。

団塊の世代」は著者である堺屋太一氏の作った有名な言葉ですが、
氏の言葉は、言葉が示す直接的な意味合いや背景分析に加え、
将来まで見通す力を持っています。


本書で最も重要となる言葉は「知価社会」です。
単語の雰囲気から、物から知識やサービスが価値を持つ社会。
教科書的な言い方をすると、第二次産業から第三次産業への転換。
といった印象を持ちます。
また、私の勤務するコンサルティングやシステムの業界では、
ナレッジ経営とか、高付加価値への業務シフトとか、そういった単語が
思い出されます。

一見普通の話のようですが、本書で述べられる、知価社会」は、
このような直接的な意味合いでは無く、様々な背景分析と将来予想がセットと
なり、本書の各論を構成しています。

「工業社会」とは、物を得ることに価値が置かれる社会と定義しています。
沢山の物を得るためには、よりよい教育を行い、給料の高い仕事に就こうとします。
貯蓄して金利を得ながら物を買い消費することが健全と言われます。

まずは貯金をするという考え方ですが、そのようにして1500兆円とも言われる
日本の個人金融資産が蓄積されたのだと思います。

これに対し、
「知価社会」とは、人間の幸せは満足の大きいことに価値が置かれる社会です。
この場合、給料の大きい会社よりも自己実現や対人接触の多い職場が好まれます。
また、今の満足を重視するため、先に物を買い(消費し)後で支払うのが、利口と
考えられます。

カードで後払いする考え方ですが、アメリカ(やイギリス)の消費パターンです。
先に家を買ってしまう。という考え方の究極の先にサブプライムローンがあった
訳です。


 「工業社会化」が完成した日本
 「工業社会化」を目指す中国
 「知価社会化」が完成したアメリ

「工業社会化」と「知価社会」の2つのキーワードで世界を読むと様々なことが
見えてくるのです。
例えば、「工業化社会」では高等教育と一定の貯蓄の後に結婚しますので、
どうしても結婚年齢が高齢化し、結果少子化が発生します。


Amazonの論評をみていると、本書のタイトルである”2011年”を巡って、
具体的な説明が無いといった酷評も見受けられます。
確かに2011年に何が起きるというような未来予想の書籍ではありません。
特別予算によって一時的に浮上した世界経済は、2010年つまり今年の後半から
来年にかけて、特別予算切れによって、2011年には二番底に転じます。
(と堺屋太一氏は執筆時点で予想しています。)

日本が、2011年以降を乗り切る方法として、

  1,大きく変わらない
  2.「知価社会」への変更

をあげています。
大きく変わらない、すなわち現在の民主党政権のばらまき型のアプローチは、
かつて同じような政策を行い没落していったアルゼンチンの二の舞になる。
と説き、「知価社会」への変更以外に、日本に生き残る道は無い。
と述べています。

私も”未来予想本”と勘違いして購入してしまった点はあります。
本来ならば、例えば、

  世界は「工業社会」から「知価社会」に変化する凄い時代

みたいなタイトルが良かった気もしますが、堺屋太一氏の気持ちを究極に
圧縮すると、勝負は2011年で、それを過ぎたら手遅れになる。
といった意味として理解しました。


堺屋太一氏は沢山の時間をかけて執筆した。と述べていますが、
本書は、沢山の資料を用いて議論が展開されており、とても時間をかけて
執筆されたことが容易に想像出来ます。
後半は若干冗長化した印象もありますが、本書の3行はそこらのビジネス本1章にも
相当すると思われ、
こんな書籍が1800円で販売されていることには驚きすら感じます。
大学の専門書だったら、5000円位はしてもおかしくない内容です。

日本を背負う全ての社会人に読んでもらいたい一冊です。
読み切るのが若干大変ですが、前半だけでもエッセンスがつかめると思います。