宮崎駿監督作品「風立ちぬ」をみて、宮崎アニメを観て初めて泣いてしまいました。(後編)

今日も予告編の話しからはじめます。

風立ちぬ」の上映に先立ち、
高畑監督の「かぐや姫の物語」の予告編を見ました。

かぐや姫」という日本人全員が知っている物語を
映画化してどうなるのか疑問に思っていましたが、
予告編の”この絵”をみて、

これは凄いのではないか。

・・と思いました。

ちょっと古っぽいというか、
独特の画風が斬新で、

これまで観たことのない
「アニメーション」に思えるです。

これは是非観たいと思いました。


・・という訳で本日も宮崎駿監督作品

風立ちぬ

をご紹介します。

さきほど「風立ちぬ」はリピータが続出している。
という記事を読みました。

客層は年配の方々も多いようで、
平日の日中も映画の入りは良いそうです。

なんといっても、
「蚊帳」
を知っている年代向けの映画ですからね。
(対象年齢は50代とか60代以上でしょう。)

では、今日は後半ということで、
堀越二郎と里見菜穂子」の物語を中心に
ご紹介したいと思います。

私が読んだ「零戦」の本には、
奥さんの話書かれていたかどうか、
記憶にありません。

ですから映画を観るまでは、
里見菜穂子に関する情報は全く持ち得ていません。

堀越二郎と里見菜穂子のストーリーを
簡単に要約すると、

 震災で偶然出会い、
 その後、奥さんの自宅を訪ねるも会えず、

 軽井沢のホテルで偶然再開し、
 そして恋に落ちた。

 ところが、奥さんは結核を患っており、
 懸命に治療に励むも直らず、

 最後の短い時間を
 二人で過ごし、

 そして一人去っていった。

とそんな具合です。


奥さんが結核(つまり当時の死病)
を煩いつつも結婚を決意したのは偉かったですが、
しかし頂けないのは、

 二人は時間が無い。

といいつつ堀越二郎は仕事(つまり零戦の設計)
に熱中するのです。

ある意味、良く出来た奥さんですし、
ある意味、世の中の男の理想の女性ですし、
ある意味、(きっと)宮崎駿さんの理想の女性に違い無いのですが、

きっとこの夫婦の関係は、
宮崎駿監督か、もしくは近しい誰かを
モデルにしているのではないかと思いました。

今時の女性ならば、
速攻で三行半を突きつけられそうですしね。(爆)


堀越二郎と里見菜穂子が初めて出逢うのは、
関東大震災の日、
都心へ向かう電車の中でした。

お嬢様育ちである里見菜穂子は、
一緒にいた連れのお手伝いさんが怪我をして歩けなく成り、
そこに堀越二郎が現れ、彼女たちと神社に避難します。

この時の様子を後に里見菜穂子は、
白馬に乗った王子様がやってきた。
と表現していますが、
確かにそうなんだろうと思います。

神社にいくまで、
堀越二郎がお手伝いさんをおぶい、
里見菜穂子が堀越二郎の重そうな
トランクを運びます。

 「自分の荷物はどうしたの?」

堀越二郎に聞かれ、

 「置いてきた」

と答える里見菜穂子は、確かにお嬢さんです。
物に未練がありません。

そして、両手でトランクを重そうに
トランクを担ぐ横顔は、

あの「ナウシカ」の横顔とそっくりでした。
(「ナウシカ」が銃か大砲をもつ横顔の絵に似てる。)

私が何故宮崎アニメを見続けているかといえば、
そうです。
新しい「ナウシカ」ちゃんが観たいわけですね。

千尋」や「ポニョ」が登場する、
子供向けのアニメではいけないのです。

このシーンの里見菜穂子は、
個人的に、これまでの宮崎アニメの中で
もっとも「ナウシカ」っぽかった気がします。

なお、堀越二郎の妹は「千尋」系でしたが・・。


この横顔をみて、いける映画だ!
と確信したのですが、
その後はなかなかナウシカっぽい画が出てきません。

大人になって軽井沢のホテルで
ようやく再開するのですが、

ナウシカ」が大人になると、こんな感じなのか。

・・と少しがっかりするも、
悪くはない感じです。

そんな女性の成長の表現も含め、
良く出来ている映画です。

なお、話題と成っている声優、

妙に可愛い里見菜穂子の声と、
妙に平坦な堀越二郎の声の対比ですが、

映画を見始めたときは、
堀越二郎の声をつとめる庵野秀明さんは、
どうも平坦過ぎてイマイチと思えました。

しかし、映画を観ていると、
だんだん気にならなくなり、
最後には、いいんじゃないか。
と思えるようになりました。

これもこの映画の何かのマジックです。
もう一度見て分析してみたいです。


(話しはストーリーに戻り、)
美しい里見菜穂子に堀越二郎は興味を持つのは
自然な事ですし、
里見菜穂子は白馬の王子様を忘れていません。

北軽井沢の万平ホテルが舞台とも言われて
いますが、

時の外国人(つまり大金持ち)の避暑地と
成るような超高級ホテルを舞台に
二人の恋愛が描かれます。

「日本は貧しい」

というセリフのことを書きましたが、
同じ映画の中で、
エリートサラリーマンである堀越二郎と、
お嬢様である里見菜穂子が表現されるのですから複雑です。

さらに仲良くなったドイツ人(と思う)が、
朝からネクタイをして「クレソン」を食べています。

あのような生活が戦前の日本にあったかと思うと、
少し衝撃を覚えます。

「クレソン」もそうですが、
本当に色々な細かな事が描かれております。

昨日、この映画は原作があるので、宮崎監督は
少し楽だったに違いない。
と書きましたが、実に失礼な事を書いたと反省です。

この描きよう、シナリオの緻密さ、細部の表現・・

いくら原作があろうと、
アニメ化にあたっての気持の入れよう、
心の入れようは、ハンパ無いのです。


結局二人は付き合うことになるのですが、
里見菜穂子は結核を患っております。

 病気を治す。

とは言うものの、
どんどん身体は悪くなります。

そして吐血をして、
富士見という地名がある、高原の病院に入院します。

このシーンも4分の予告編にありましたが、
あえて寒い思いをして、
自己回復力で病気を治そうというのでしょうか。
病人が雪の舞う野外でベッドに横になっています。

詳しいことは分からないのですが、
この映画の謎の一つです。
(蚊帳は知っていても、当時の医療は分からない・・。)


その後病院を抜け出し、
名古屋にある堀越二郎の下宿先に単身押しかけます。

下宿先の上司に、
結婚前の若者を一つ屋根の下に住まわせるわけには
いかないと言われ、

二人はその場で即席の結婚式を挙げます。

当時の人は直ぐに結婚式の準備ができるものだと
感心するのですが、

その一方で、
田舎の年配の人達なら、即席結婚式は準備できそうな気もします。
確かに田舎のおじさんたちは、長持唄とか普通に歌えますしね。。

というか、大切なことは、
宮崎駿監督でなければ、
あの結婚式のシーンは描けないと言うことなのです。

「蚊帳」と同じように、若い監督は思い浮かばない。


私の世代(40代以下)になると、
観れば気付くのですが、自分の中からは出てこないと思います。
つまり日本のアニメーションで、
この先は出てこないであろうカットが、
この映画にはふんだんにあるのだと思います。


このシーンも予告編にありますが、
里見菜穂子の嫁入りシーンが美しいと絶賛されています。

少々不謹慎ですが、
着物を着て廊下を歩く姿は、
漫画家「高橋留美子」さんの画風のように思えました。
いずれにせよ、確かに素晴らしいと思います。

そしてこのとき里見菜穂子がフラットと
倒れそうになり、
涙がぽろっと流れてくるわけです。


その後は、
最初にも書きましたが、
二人には時間が無い。と言いつつも、
堀越二郎は仕事に没頭し、
夜遅く帰宅して、
そして自宅でも仕事を続けます。

ちゃぶ台で仕事をする直ぐ横には、
病気の奥さん(里見菜穂子)が寝ています。

左手は奥さんの手を握り、
右手のみで仕事をします。

天井からぶら下がる電灯には、
奥さんに光が行かないように、
風呂敷か何か、布が捲かれています。

これも経験者でしか書けない絵だな。

・・と宮崎駿さんの、心優しい愛を感じましたが、
その直ぐ後で、

タバコすいたい。
と奥さんに手を離してもいいかと訊ねます。

奥さんがイヤだというと、
その部屋の中でタバコを吸うのですが、

これは止めて欲しかったです。(汗)

どこの世界に結核の奥さんの横で
タバコを吸う旦那がいるというのでしょう。

しかし、
こうしたシーンを、わざわざ限られた映画の時間の中で
表現するということには、必ず意味があるのです。

一つは、タバコに対する考え方が、
今とは全く違っていたことです。

この映画ではタバコのシーンが多いのですが、
これも何かの表現に違い在りません。

そしてもうひとつは、
優しさと、ダメ人間が同じ身体の中に存在する、
男というものを表している訳です。

それは逆に、そんなダメ男を許してくれる女性の優しさ。
ココを最大限に引き出しているのですが、

これは間違い無く、男の勝手な願望・理想と思いました。


このあと映画では、
ついに零戦の試作が完成したその朝、
朝帰りをして、布団の横に倒れた堀越二郎を髪をなぞり、
直ぐに仕事で出かけて行った堀越二郎を見送り、

里見菜穂子は静かに下宿から去っていきます。

この時も赤い帽子を被っているのですが、
昔に私の母親も赤い帽子を被っており、
赤い帽子も、
なにかを表現しているに違い無いと思いました。


映画はこれでだいたい終わりで、

あとは終戦となり、
一人生き残った堀越二郎の様子を、
里見菜穂子が幻想の中に現れ消えて
行くことで表現しています。

 「零戦は一機も帰ってこなかった」

という心に響くセリフと、

 「それでも君は生きねば成らない」

と夢の中で、
憧れの飛行機設計家、カプローニに言われるのですが、

「生きねば。」というのは、

映画のコピーにも使われているのですが、
このセリフは映画を観た後でも、
正直、響きませんでした。

一つ云えることは、
殺人兵器をつくり沢山の若者を死なせてしまい、
最愛の奥さんも亡くし、

・・それでも生きて乗り越えた。

だから、人間はどんなに辛くても
生きて・生き抜かねばならない。

それが宮崎駿さんが最後に言いたかったことなのか?
そんな事を感じます。


そしてエンディングロールでは、
荒井由美さんの「飛行機雲」が大音量で流れます。

ドラムの音などが古いので、
当時の音源と思いますが、

いろんな人が絶賛しているとおり、
なぜこんなに映画と合うの。

という位素晴らしいです。

最後に「飛行機雲」の絵が出れば
もっと良かった気がしましたが、

というのは、堀越二郎の時代は、
プロペラ機なので飛行機雲はでないように思います。
しかし、そんな事を飛行機オタクの宮崎監督が知らない
筈がありません。。これもワザと何かの演出なのでしょう。

という訳で、
非常に印象深い、印象深すぎる今日の1本でした。
アニメ史上最高の一本だと思いました。

映画『風立ちぬ』公式サイト


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