水谷豊・伊東欄主演映画「少年H」は色々と考えさせられる映画でした。幅広い年代にお勧めします。

昨日は戦争に関する話題を書きましたが、
この夏も、

終戦のエンペラー
風立ちぬ
「少年H」

と3つの戦争関連映画が話題となっておます。

私は「風立ちぬ」と「少年H」の2本の邦画を
観たわけですが、

どちらの映画も、
戦争そのものは主題としておらず、
戦争の時代に生きた人々や家族をテーマにしています。


「戦後の総括」といった言葉もありますが、
映画に限らず、

なぜ戦争をストレートに表現することが出来ないのか。
少し物足りない印象があります。

映画も表現のひとつなのですから、
(個人的には、)たとえブーイングを受けようと、

監督でも原作でもよいので、作り手の、
戦争に対する考え方、気持という物をもっと表現して
欲しいと感じたりします。

もちろん、映画は大勢の人を巻き込んだ
ビジネスということで、偏った表現が難しいことは
十分に承知しています。


・・という訳で本日は、水谷豊さん 伊東欄さん主演映画

「少年H」をご紹介します。

少年+アルファベットというと、
なにか悪いことをした少年を連想させます。

そんなストーリーかと勝手に想像し、
映画を観るべきか少し迷いました。

しかし、
私の大好きな水谷豊さんと、
奥様である伊東欄さんが出演するということで、

これは、足を運ばざるを得ません。(笑)

結果的には、
この映画は大満足です。
特に水谷豊さんは期待通り、最高でした。


ストーリーを簡単に紹介すると、
神戸で外国人やお金持ちの相手に、
注文服の仕立屋を営む水谷豊さん家族(妹尾家)の
戦前から戦後を描くものです。

少年Hは水谷豊さんの息子であり、
名前は肇(はじめ)といいます。

物事の本質をつくような”ひと言”が余計な、
様々な災難を生み、ストーリーが展開していきます。
つまり、少年Hがこの映画の本当の主人公です。

水谷豊さん演じる父は、
町の洋服の仕立屋をしています。

各国から来日した企業家を相手に商売をし、
そしてクリスチャンでもある父は、

世界情勢の理解という意味では
日本国内の一般市民のレベルを超えていました。

口には出しませんが、
戦争の足音や勝敗の行方を正確に把握できるのです。

たとえば、
戦争が近づきアメリカに帰った牧師さんから、
息子にエンパイヤステートビルの
絵はがきが届きます。

英語の文面や写真をみて、
水谷豊さんが家族に対し、
どのような建物か説明するシーンがありますが、

その絵はがき1枚をみても、
日米の国力の違いを知るのです。

そして少年Hはそのことを敏感に感じます。

 摩天楼を建築するアメリカと、
 戦争をして勝てるのか?

少年Hにとっての素朴な疑問は、
この時代背景的には余計な疑問です。

この摩天楼の一枚の絵はがきによって、
後に、父にスパイ容疑がかけられる
原因となるのですが、

そんな時代だったのか。
・・と映画を観て実感します。


映画では女形の舞台俳優として有名な
早乙女太一さんが、
「男姉ちゃん」と呼ばれ登場します。

「男姉ちゃん」とは上手いな〜。
と感心していると、

病気で年老いた母を一人残し、
赤紙によって徴集されます。

この手の物語では、
王道・鉄板ストーリーなのですが、

そしてその結末はかなり悲しいです。


また野球の用語が、
ピッチャーから投手になったり、
キリスト教徒が白い目で見られます。
(当時天皇は現人神と教育されている。)

少年にこっそりジャズのレコードを聴かせて、
仲良くしていた向かいのお兄さんは、
政治活動をしていて警察に捕まります。

言論や思想の自由がどんどん失われていくのです。

そうしたなかで以外なのは、
少年Hのアルファベットが利用できることです。

同盟国ドイツも使っているからです。

少年のセータにはおおきなHの刺繍がして
あるのですが、彼はヒトラーのHといって
友達に説明をします。

当時はヒトラーは英雄だったのかもしれず、
そして近所のおじさんがHを読めなかったり
するのですが、

そんな場面をみて、
かるく衝撃を覚える訳です。


その後
中学校(有名な進学校と思われる)に入るのですが、
そこでも軍事訓練が開始されます。

この手のドラマではよく出てくるのですが、
各学校に派遣された軍人(軍事派遣教官)
にいじめられたり、
良い軍事教官に助けられたりします。
こちらもシナリオとしては定石通り王道です。


映画では戦争前の、
現代とよく似た雰囲気が印象的です。
それは、あまりに普通でこんな感じだったの?
・・と何故か馴染みが無いのです。

その後、
戦争が近づき終戦に向けどんどん厳しさを増し、
なぜか私たちがよく知っている、
暗いイメージの戦中となります。

そして映画では敗戦を迎えます。

正しく国際情勢を捕らえ、
知識や知恵に富み、
最後まで家族を守りきった父親でしたが、
それでも戦争に負け急にやる気をなくします。

それに反して、
鬼畜米英といっていた町の人達が、
進駐軍に愛想を振りまいている様子が
映し出され、複雑な気分となります。

息子(少年H)から、
何だよ父ちゃん。しっかりしろよ。
みたいな事を言われ、
その一言でやる気を取り戻し、
再び仕立屋を再開します。


印象的なシーンが連続し、

特に、空襲の様子などが再現され、
焼夷弾というものは、
こんな感じで振ってくるのか。
などと感心します。

そして予告編でも観られる、
焼け野原と成った神戸で

水谷豊さんが焼け焦げたミシンを拾うシーンなど、
戦場のピアニスト」を彷彿させる
名シーンと思いました。

素晴らしいシーンと、
考えさせられるシーンが交互に現れ、
娯楽と言うよりも、
重い映画といった印象もあります。

しかし、
水谷さん一家(映画では妹尾家)は、
誰一人戦争で犠牲になることもなく、
戦後の食糧難の時代にも親戚からご飯(白米)
をもらえるなど、

当時としては恵まれた一家として表現されています。

この家族で亡くなる人が出ると、
亡くなった人を中心とする
悲しいドラマと成ってしまうので、
あえてあまりそういったことは表現しなかった
のだと思います。

つまり、本作で表現したかったのは、
もっと別の所に有るのです。


映画を見終えた今感じるのは、

戦争の足音が聞こえてきたら、
どういったことが待ち受けているのか。
想像ができるということです。

戦後何十年もたってから生まれた私たちは、
戦前は現代とはまったく違った時代と考えがちですが、
映画を観ればそれが、間違いであることが分かります。

映画表現が全て正しいと云うつもりは有りませんが、
乗り物や家電が古いだけで、
現代とは大きく変わらない生活がそこには有ったのです。


この夏に、
表現の自由が無くなったときに戦争が起きる。
というような事を書いた記事を読みましたが、

究極はアルファベットを使って良いのか?

という問いです。

たとえば、このような「表現の自由」とはなにか、
「少年H」が着る胸の大きなHの刺繍で表現した
のではないかと感じました。

つまり、この映画は一見家族の団結や
その時代に生きた人間の強さを表現しているように
見せつつ、

本当は表現や通信の自由の大切さを
伝えたかったのではないかと感じました。


さてこの映画は、水谷家の4名の他は、
主要人物が6名しかでてきません。

良い軍事教官を演じる佐々木蔵之介さん
悪い軍事教官を演じる原田泰三さん

最高に填っていて良かったです。

唯一キャスティングに疑問を感じたのは、
水谷豊さん伊東欄さん夫妻で、
少年(とその妹)の年齢を考えると、
一回りは歳を取りすぎていると思いました。

昭和初期であることを考えると、
結婚年齢や出産年齢は20代前半でしょうから、
中学生の子供がいる両親は30代でなくては
あいません。

この映画のキャスティングは実に良いと思うのですが、
そういった年齢の違和感を越えて
あえて水谷さん夫妻を選んだということは、

つまり、今時の30代の若者では絶対表現できない
重厚感のようなものを表現するためだった
に違い有りません。


こんな訳で、映画「少年H」は
戦争に対し変な主義主張が感じられず、
人それぞれ感じるところの多い映画と思います。

少年少女から戦争をしる大人まで、
幅広くお勧めです。

とても印象深かった今日の一本です。


http://www.shonen-h.com/pc/movie.html

追伸)
実は私の母親は若い頃、
女性向けの洋服を作っており、
足踏みミシンを使っていました。

そんなミシンの様子や、
型紙や生地を切る姿など、
映画を観ながら本当に懐かしく思いました。

ちなみに映画では、
水谷豊さんが奥様役の伊東欄さんの洋服を作る
シーンがありますが、
私の母親は男向けの洋服は(母の技術では)作れない
といって作ってくれませんでした。

シャツやズボンの造りが、
男女で大きく違うとは思えませんが、
(右前左前が違うぐらい?)
この理由は未だ不明です。

という訳で、
私も名前的には、少年Hですが、
母親に洋服を作ってもらったことはありません。


※2013/8/23投稿