「終戦のエンペラー」を観ると、少しアメリカが嫌いになり、日本人としての感情を揺さぶる映画です。

今週末も朝から映画館に行きました。
先週、満席だった映画を観るためです。

他にも観たい映画が沢山あるので、
諦めようかとも思いましたが、
やはり気になる映画ではあります。

映画はハリウッドで作られましたが、
プロデューサーは日本人女性で、
しかも、映画の中の重要な登場人物の、
お孫さんにあたります。

映画のホームページによれば、
子供の頃に”祖父”から聞いた話しが
頭の中から離れず、
今回の映画を作成するきっかけとなったそうです。

この映画は、
天皇に戦争責任があるかどうかを問うような、
これまで日本映画では扱うことが無かったテーマで、
内容はフィクションとは言え、
歴史を忠実に再現しているとのことです。


・・という訳で本日は、

終戦のエンペラー

をご紹介します。


この夏は(個人的)戦争映画3部作のうち、

「風たちぬ」
「少年H」

をみました。

「少年H」のブログでも書きましたが、
戦争そのものに主題を置いているわけではなく、
戦争の時代を懸命に生きた人達をテーマにしています。

そして、そういった表現は少し物なり無い。

とブログで書きました。

そんな中、
ハリウッドで作られた「終戦のエンペラー」は、
これまでの日本の映画が扱ってこなかった、
いわば天皇の戦争責任という、
タブーに足を踏み込んでいるという、
前評判が聞こえてきました。

さらに、日本人がプロデューサーであり、
アメリカ的な偏った見方をしている訳でもなさそうです。


映画から伝わってくるのは、
日本が戦争に敗れたとき、
アメリカ(ワシントンつまり大統領と議会)では、
天皇の戦争責任を追及する声が大きかったようです。

簡単に言えば、
天皇を悪い国の大様として処刑せよ。
ということなのですが、

天皇を罪に問えば、日本の統治が難しくなり、
コントロール不能となった後、
(その後大統領選を視野に入れ、)
自分の評判を落とすことを懸念したマッカーサーは、

天皇には戦争責任が無い。だから裁かない。
という自分にとって都合の良い証拠探しを、
部下のフェラーズ准将に命じます。

彼に与えられたリミットは10日間です。

フェラーズ准将は、
戦前に日本に来たこともあり大の日本通ですが、

結局、締め切り迫る晩まで、
天皇に戦争責任が無い事を示す、
証拠にはたどり着けませんでした。

しかし、その締め切りの晩に、
天皇の側近である木戸幸一(伊武雅人さん演じる)が訪れ、
戦争を始めた責任は分からないが、
戦争を終わらせたのは、
確かに天皇であることを説明します。
そのため多くのアメリカ兵を救ったのだと。

結局この夜耳にした内容をレポートにして、
マッカーサーに最終報告を上げます。
証拠はない、しかし最後は自分(マッカーサー)が、
直接天皇と会って判断しよう。
と言うのです。

そしてマッカーサー昭和天皇の歴史的な会談
が開かれ、二人の有名な写真が撮影されます。


映画は、原爆爆発して日本が敗戦を迎え、
マッカーサーが厚木に向かう、
1945年8月30日に専用機「パターン号」
の機内の中から始まります。

この頃日本軍はまだ武装解除を行っておらず、
武力的には占領軍である、マッカーサー以下
進駐軍のほうが非力です。

そうした状況を説明しながら、
映画では厚木基地に降り立ち、
沢山の航空機などの残骸の中の道を、
GHQ(皇居の真向かいにある)第一生命館に向かいます。
この一帯は、戦後占領軍の施設として使うため、
あえて空襲をしなかった地帯でした。


映画を観ながら思うのは、

こうした背景は、
活字として読んだ事がありますので、
知識としては知っているのですが、

実際映像として見て、セリフとして耳にすると、
たとえ映画であったとしても、
まったく違った心証を覚えるのです。

要するに、
アメリカはこんな酷いことを日本にしたのか。

そんな気持です。
映画を観て感じた、自分の気持ちの変化に、
正直、驚きました。

私は広島・長崎の原爆記念館を見に行った事があり、
それは何年も前の話ですが、
未だに忘れられないインパクトがあります。

本当に悲しい気分になるのですが、
かといってアメリカに心底嫌な気分になった訳では
有りませんでした。

しかし、
このビルは後で使うから爆撃しなかった。
みたいなセリフや、焼け野原と焼け出された人達の
悲惨な状況をみてし腹がたったのです。

アメリカという国は、
日本と戦争を始める前から
様々な研究をしてプランを立てていた訳で、
今頃腹が立つとかいうのはおかしいのですが、

それでも、
焦土と化した日本があり、
焼け出された人達の映像をみていると、
こんな酷いことをした国と、
仲良くしている私たちって何者なんでしょう。
・・という気はしないでもありません。

アメリカに無理矢理押しつけられた憲法
などと改憲論者が言うセリフを、
一般知識としては知っていても、

感情として実感がわかないのは、
こうした苦々しい経験が無いからではないか。
そんな事も感じました。


例えば終戦にしても、
どうやって戦争が終わり、
沢山の軍人さんがいなくなったのかなど、
私たちにはイメージが付かないことが沢山あるのです。

そしてこの映画は、戦後生まれの私たちが
分からない事をイメージ化するという点において、
貢献度合いは計り知れないと思いました。


腹立たしい話しはさておき映画の話しを続けます。


爆撃で破壊された東京の町並みの奥に、
山が見えたりするのですが、
東京から山が見えるのはちょっと違和感があります。

また焼け出された人達も、

本当に日本人かな。?

と感じたりもします。

戦争中の日本人ですから、
食料も厳しく痩せて、
顔つきも違っているはずなので、
そのための演出をして違和感があるのかと感じましたが、
ちょっとわかりません。


後で知ったのですが、
映画は皇居のシーン以外は、
ニュージーランドで撮影されたそうです。

なにか本当の日本的な雰囲気が出ていないのは、
そういった外国の土地や、
外国人スタッフのためかとも思います。

ちなみに、フェラーズ准将の最終報告を
マッカーサーが読むシーンがあります。

場所は東京湾の港の何処かという設定です
・・・が、海岸沿いの小高い山に
名古屋城を思わせる立派な天守閣が有りました。
これは、思いっきり間違いです。
それに名古屋城は空襲で焼かれてしまいました。


映画は、天皇の責任を負うフェラーズ准将を
中心に物語が進みます。

東条英機をはじめ、近衛文麿、関屋貞三郎、木戸幸一
らの調査と、

フェラーズ准将が学生の頃、日本からの留学生だった、
「島田あや」と恋に落ちるシーンを絡めます。

ちなみに、
東条英機演じる、火野正平さん、
近衛文麿演じる、中村雅俊さん、
木戸幸一演じる、伊武雅人さん、
関屋貞三郎演じる、夏八木勲さん、

どの方の演技も本物っぽいです。
ただ東条英機さんがやや病的な演出ですが、
ちょっと印象とは違っています。

当時の人の立ち振る舞いの様子など、
映画全体では、登場時間はほんのわずかですが、
もの凄い存在感を感じました。


また島田あやを演じる、
初音映莉子さんはこの映画で初めて知ったのですが、
なんともアメリカの映画にあうというか、
現地の日系人を感じさせるような、
なんとも雰囲気のある女優さんと思いました。

とても良かったです。

フェラーズ准将が、戦前日本にやってきて、
二人が恋に落ちるシーンの中で、
竹の中で戯れるシーンがあります。

その時の竹の色合いが、
どうも中国っぽい、違和感を感じましたが、
私だけでしょうか。?

そして戦争は二人を引き裂く訳です。

そうした設定はある意味、鉄板ストーリですが、
彼女が忘れられないフェラーズ准将は、
日本に来て一番最初に、彼女の行方を捜します。

彼女は静岡で英語教師をしていたのでした。
しかし静岡の地も、例外なく爆撃されています。

戦前訊ねたことがある、軍の司令官をしていた、
彼女の叔父さん(西田敏行さん演じる)を訊ねます。

彼はサイパン沖縄と激戦地をくぐり抜け、
今は一人で生きています。

実際に司令官クラスで、サイパン・沖縄という
二つの玉砕戦を生き残った人は居ないと思うのですが、

ここで表現したいのは、
年老いた軍の偉いさんが生き残り、
日本に残った家族や、子供は全員死んでしまったと
いうこれもある意味鉄板な対比です。

一瞬登場した二人の息子さんの写真は、
航空帽を被っていました。
年齢から考えると、
つまり特攻隊で亡くなったのだと思います。

空爆後の模様や、豪華な皇居の中の様子など
のセットが話題に成りますが、

このような細かな所もぬかりなく表現されている
映画だと思いました。


結局マッカーサー天皇が写真を撮って
映画はだいたい終えるのですが、

映画でみると、マッカーサーを演じる

某コーヒーのCMで有名な
トミー・リー・ジョーンズさんが立派で、
昭和天皇を演じる、片岡孝太郎さんがおどおど
した感じなのですが、

本当の写真をみると、
マッカーサーは、ちょっと気の抜けた写真
になっているので、違った印象を持ちます。

つまりこうした細かな演出に、
作り手つまりアメリカの気持が見えるのです。


映画のコメントを読むと、
マッカーサーと直接交渉にあたった、
吉田茂や白州二郎が出ていないとか、
いろいろ有るようです。

映画で印象深かったセリフは、
中村雅俊さん演じる近衛文麿のセリフで、

人殺しが悪いというなら、
広島・長崎の原爆はどうだろう。

植民地が悪いというなら、
フィリピンやシンガポールは誰の植民地
だったのだろう。

つまり、あの時代日本は、
欧米の先進国のマネをしただけだ。

という歴史観です。

それをきいたフェラーズ准将は、
歴史の講釈は結構。

と議論を避けるのですが、
このシーンがアメリカ版であったかどうか?
気になるというコメントも読みました。

しかし私は、この映画は、
アメリカで先行公開され、
一定数のお客さんがが入ったと言っても、

どう考えても、
日本をターゲットにした映画だと感じました。

興行的に成功だったかどうかは分かりませんが、

色々と感情が盛り上がったり、
考えさせられる点が多いという意味では、

日本人にとっては、
この映画を製作して頂き良かったと思います。

そろそろ映画も公開が絞られてきていますが、
歴史に興味があって、
まだご覧になってない方には、
是非お勧めしたい今日の1本です。


http://www.emperor-movie.jp


追伸)
映画のホームページに、
「始まりは、奈良橋プロデューサーが“祖父”から聞いた話」
とあるのですが、
奈良橋さんが生まれたのは1947年で、
”祖父”関屋貞三郎さんが亡くなったのは1950年です。

天皇終戦の話題を、
2歳か3歳頃の子供が覚えているというのは、
・・・・疑問です。