江口洋介主演「天空の蜂」は観て良かったと思う映画です。日本の問題は原発や武器などの”物”ではないのです。

最近のニュースは、
集団的自衛権を巡る国会運営や
法案に反対するデモの様子が目を引きます。

成田や沖縄など一部を除けば、
日本で大がかりなデモ活動が起きるのは、
40〜50年ぶりぐらいと思うのですが、
再びこの日本で、デモが起きるとは、
想像出来ませんでした。

私がそうしたデモに参加することは無いのですが、
しかし法案や国会運営に反対するデモが起きるのも、
民主主義の国として健全な姿にも感じます。

現在の日本、
特に安倍内閣にとっての論点の一つは、
集団的自衛権に関連する国防と憲法の議論であり、
もう一つは、原発再稼働に関連するエネルギー問題です。
(もちろん、景気・財政・少子化など問題は尽きませんが・・)

個人的に現在の日本の一番の問題は、
少子化ではないかと思うのですが、

しかし、少子化反対・などというデモは起きませんし、
20年以上も景気が低迷してもデモは起きませんでした。

そうして考えるとデモが起きやすいテーマは限られており、
国防や原発に関する問題はその代表的なものでしょう。

国防つまり戦争問題。
原発つまり核。

どちらも70年前の敗戦に端を発する事象であり、
日本人のアレルギー問題です。

なかなか戦後は終わらないのだと感じます。

・・という訳で本日は、江口洋介さん・本木雅弘さん主演映画、

 「天空の蜂」

をご紹介します。

今年7月29日に国会で、
原発がミサイル攻撃されたらどれ位放射性物質が放出されるか。
という質問を山本太郎議員がして、
原子力規制委員会は、事態を想定していない。
と回答をしたことが話題に成りました。

このやり取りは様々な議論を生むのですが、
(例えば、どんな法案を作っても、日本に原発がある以上、
原発が狙われるので、日本は戦争をすることができない出来ない。
という逆説的なとらえ方もあるようです。)

つまり原発の一つの問題は、
何かが原発に衝突したらどうなるのか分からない。
という点にあり、
ひとたび放射性物質が漏れ出すと、
未来永劫その土地に住めなくなってしまいます。

つまり戦後の復興のようなことが出来ない訳です。

この問題を今から約20年前の1995年に小説化したのが、
東野圭吾さんの原作「天空の蜂」です。

ストーリーを超要約すると、
自衛隊が新しく開発した大型ヘリコプターCH-50
通称BIG-B(ビックB)が、自衛隊への納品前に乗っ取られ、
爆薬を積んだ状態で、
原発の上にホバリング(空中停止)するのです。
※確か高さは6千メートルだったかな?

燃料が切れるまでの時間は約10時間。
その間に日本中の原発を全て止め破壊せよ。
と言うのが「天空の蜂」を名乗る犯人側の要求で、
これを阻止すべく、ビックBの設計責任者の
江口洋介さんをはじめとする、
関係者が事件に立ち向かうというものです。

東野圭吾さんが20年前に考えたストーリーは、
戦争などの外国からの侵略ではなく、
原発に反対する国内テロリストの犯行です。

自衛隊が秘密裏に開発した巨大ヘリコプターが
問題のようにも思えますが、

やはり、
原発は様々な障害に対して安全である。
という原発安全神話は、誰にも証明できない。
という問題を示した作品です。

加えて兵器機材が段々ネットワーク化していく
時代の問題も示しています。

ビックBには初めて「フライ・バイ・ワイヤ 」が導入された。
というセリフが劇中で有ります。

要するにヘリコプターの操縦桿を人間が動かし、
機械的に舵やアクセルが動くのではなく、

操縦桿のセンサー信号を電気的に処理し、
コンピュータを経由したモーターが
舵やエンジンを制御します。

つまり、悪意のある誰かが、
ヘリのコンピュータにハッキングして、
リモートコントロールで操縦が可能なのです。

この設定が、1995年から20年を経過した現代の設定になると、
今年公開された映画ミッション:インポッシブルのように、
ソ連の衛星ネットワークにハッキングして、
飛んでいる輸送機のハッチを開けることが可能となります。

加えて最近ドローンと呼ばれる、
ラジコンのヘリコプターが首相官邸に墜落する事件も起きる中、
無線操作でヘリコプター動くということに違和感を感じる
ことはありません。

まさに映画化するタイミングとしては、
ピッタリかもしれません。

大型ヘリコプターと言えば、
ロシアには、Mi-26と呼ばれる超大型ヘリコプターが
ずいぶん前からあります。
小説や映画をつくるにあたり、構造やスペックなどは、
その情報を参考にしているのだと思います。

映画では、航続距離が1,600キロもあり、
外国にいけるようなヘリをどうするんだ。
本木雅弘さんが、ビックBの設計者である、
江口洋介さんに詰めよるシーンがあるのですが、

実際のMi-26の航続距離は1,952kmもあります。

東北の震災の時、
ロシアから直接支援物資を載せて飛んできたのですが、
つまり、これ位の後続距離があれば直接日本海
渡ることができます。

それが何を意味するかということですが、
現代の自衛隊は、航続距離が3,500キロもある
オスプレイを導入するということなので、
さらに意味深です。


映画のビックBは、
操縦席の下に大きなダクトのようなものがあったり、
大型の翼があったりします。

ローターの下に巨大な翼があるのは、
風を相殺するのでデザイン的には変な気がします。

なんとなく、
宮崎駿さんのアニメに出てきそうな雰囲気ですが、
個人的には、実機であるMi-26に似せても良かったのでは
ないかと思います。
あの形は軍用機として嘘くさいです。

※但しこのHPを参考すると、ロシアでは翼付きのヘリコプターも
 あるようですね。
 また自衛隊のヘリと思った機材は民間機だったようで、
 自衛隊の協力は得られなかったようですね。

http://blog.livedoor.jp/corez18c24-mili777/archives/44527589.html

 室内の撮影はなにかの輸送機を使ったのだと
 思いますが、こちらはリアルな気がしました。


映画の設定は1995年です。
当時はやったトヨタのミニバン、エスティマに家族を乗せた
江口洋介さんが勤務する工場に現れます。
自分の開発したヘリコプターを自衛隊に納入する
記念式典に、家族を招待したのでした。

ありがちな設定ですが、
主役の江口洋介さんは家庭を顧みない仕事一筋の人間で、
その償いの気持ちもあって家族を式典に招待したのでしょう。

しかし、納品式が始まる前に、
江口洋介さんの子供がこっそりビックBに忍び込み、
テロリストはビックBをリモートコントロールで盗み出します。

映画「天空の蜂」の前半は、
このビックBに取り残された江口洋介さんの子供を
どうやって助けるかが見所です。

自衛隊のレスキュー隊がヘリコプターで近づき、
ロケット砲でロープの付いたアンカーを撃ち、
ヘリコプター同志がロープで結ばれます。

そのアンカー伝いに自衛隊員が乗り移り、
子供を救難するかと思いつつ、
子供はビックBから落下してしまいます。

落下した子供を自衛隊員が助けるのですが、
あり得ない!・・と思いつつ、手に汗握ります。
この時の隊員を演じるのが永瀬匡さんで、
イケメンでカッコ良いです。

ネットの評判でもありましたが、
この映画は自衛隊がメチャクチャカッコ良く思える
映画となっています。

自衛隊のヘリが盗まれ、
内部関係者によるテロ映画ということで、
映画を観る前は、
自衛隊的な映画かと思ったのですが、
実際は悪い感情は全く持たず、
むしろ自衛隊がカッコ良い演出となっています。

そして子供が助かった後の映画の後半は、
燃料切れを迎えるビックBに立ち向かう主人公、
江口洋介さんとその関係者です。

刑事を演じる榎本明さんと、落合モトキさんは
綾野剛さん演じる犯人に迫ります。
そして、手塚とおるさんと、松島花さんの円実
刑事は、犯人の協力者である、仲間由紀恵さんに
迫るのです。

そうして原発の事件現場とは別の所で、
徐々に犯人像が示されていくのです。

(この先ネタバレになりますが、)

航空自衛隊でありビックBの開発にも
携わった綾野剛さん演じる犯人は、
原発の作業員として、若くして亡くなった若者の集会で、
原発の開発者である、本木雅弘さんと出会います。

ビックBの開発元である、錦重工業の協力者を探していたのです。

そして次に、
何故、本木雅弘さん演じる原発エンジニアが
犯人に協力するようになったのか、
映画では説明されるのです。

父親が原発の技術者ということで、
息子が学校でイジメに遭い、
本木雅弘さん演じる父の前で自殺したことがきっかけでした。
そこから人生の全てが変わってしまったのです。

その本木雅弘さんが協力者として目を付けたのは、
総務部で地味な職員を演じる仲間由紀恵さんです。

不倫関係の二人ですが、
彼女が犯人を会社のコンピュータールームに、
導く手助けをしたのでした。

95年頃は大したセキュリティーも無く、
手書きの入館帳への記載だけなのです。
それを代筆したのでした。


映画では仲間由紀恵さんが登場すると、
画面がグッと重くなります。

本木雅弘さんとのラブシーンはありませんが、
この美人美女の二人でベットの横で登場すると、
一瞬別の映画のような印象もあります。


本木雅弘さんが犯人であることに、
江口洋介さんは気付くのですが、
結局ビックBは燃料切れで墜落してしまいます。

ヘリコプターは、エンジン故障や燃料切れでも
オートローテーションという仕組みがあって、
ローターが落下に応じて回転することで、
墜落を防ぎ、緩やかに落下する仕組みになっています。

私は知っていたのですが、
これを映画の短いセリフで一般の人に
説明するのは難しいと感じました。

そのオートローテーションを利用して、
原発からずれた海上に墜落させるというのが、
江口洋介さんのアイディアです。

しかし犯人は、ローターの付け根に爆薬を仕込んでおり、
江口洋介さんが載るヘリコプターの頭上から落下していきます。

最後はどうなるか観てのお楽しみとして、
結局、民間人は誰も被害者を出さずに事件は終わり、
そして、若い刑事一人だけが殉職するのでした。


ミッションインポッシブルほどではないけど、
日本も凄い映画を作るようになったのだと感じました。

主演が江口洋介さん演じるヘリコプターの
開発責任者ということで、
久々に技術者がヒーローの映画です。

軍事関係や原発など、
世間から反発を受ける業界ですが、
それでも日本にとって必要な技術であり、
無くてはならない仕事なのです。

お前の作ったヘリコプターのせいで事件は起きているんだ。
本木雅弘さんに云われるシーンもありますが、
逆に言えば、
お前の作った原発のせいで事件が起きているんだ。
とも言えます。

悲しい二人でありますが、
どうやって折り合いをつけていくのか、
映画の中にもセリフがありますが、ここも見所のひとつです。

そんな江口洋介さんは、
奥さんから、逃げないで戦って。と言われて、
この問題に立ち向かおうとします。

奥さん役を石橋けいさんが演じるのですが、
重要な役柄なので、仲間由紀恵さんに負けない女優さんが
良かったのでは無いかと思います。


映画の最後のシーンでは、
東北の震災の様子が映し出されます。

映画を見る前に、
この震災シーンは入らなかった。
というコメントを読んでしまい、
どんなシーンなのか気になっていたのですが、

江口洋介さんの息子が、大きくなり(向井理さんになり)
自衛隊でヘリコプターのパイロットとなり、
被災者を運んでいるシーンでした。

原発この最後のシーンでは表現されず、
短髪の自衛隊姿の向井理さんがメチャクチャ男前で、
ここも自衛隊がカッコ良いシーンだったのが印象的です。


まとめてみると、
技術者が主役で、
自衛隊がカッコ良い映画。という印象です。
なお、途中で犯人の綾野剛さんが、
逃亡のため自分の指を切ったりする痛いシーンがあり、
強烈に印象的ですので、心臓の弱い方は要注意です。
他にも、綾野剛さんのナイフを本木雅弘さんが素手
握って血が出るシーンがあります。
この二つの血のシーンはいらないなぁ〜と思いました。
妙に心に残ってしまうわけです。

・・話しを戻しますが、

かといって、原発が悪いようにも描かれていません。
特に命をかけて、原発を守ろうとする、
國村隼さん演じる所長とそのスタッフは、
おそらく、命がけで福島の原発を守ろうとした
スタッフと同じなのだと思いました。

この映画では、一番悪役を演じているのは、
原発行政を取り仕切っている石橋蓮司さんで、
原発を止めたらどうなると思っているんだ。
といったセリフがありますが、
現実の私たちは原発が止まっても
問題無く生きていけることを知ってしまったわけです。


この映画で一番言いたかった事は、
武器でも、原発でも、テロでもなく、
矛盾を抱え、国民を騙し、それでも沈黙する
日本(の国民)です。

原発に飛行機が落ちても大丈夫ですよね。
仲間由紀恵さんのセリフでもありますが、

映画では、練習中のアメリカ軍のF16が、
墜落しても大丈夫。
と、原発所長の國村隼さんが答えます。

練習中の戦闘機なので爆薬は積んでいない設定です。

冒頭で、山本議員の国会質問の件を書きましたが、
きっとその程度の想定なのでしょう。

原発を緊急停止するシーンがあります。

東北の震災で国民が知ってしまったので、
「電源装置が正常であれば」と、
わざわざ、本木雅弘さんが説明のセリフを入れています。

原発は2秒で緊急停止(スクラム)できるのだそうで、
私は知りませんでした。

しかし映画では、停止したようにみせたのは、
訓練用の捜査で実際に原発は停止していないのです。

その後、エレベータや空調が止まった様子は、
我々の記憶にあるとおりですが、
冷静に見ると、テレビが止まらないあたりは疑問です。

いずれ政府は嘘をつくことも、震災で知ってしまいました。

もしかしたら、この映画のように、
日本の原発もこっそり動いていたのかも知れません。


という感じで、
久々に長くなってしまいましたが、
そうした政府の嘘に対し沈黙する国民への問いが
本作のテーマとするならば、

国会の前でデモをする国民がいるということは、
悪いことではないと感じるのです。

日本の問題は、武器や原発という物ではなく、
国民に嘘をつく行政や、そして嘘をつかれても声を上げない
国民にあるということを感じた今日の一本でした。


追伸)
江口洋介さんと本木雅弘さんが勤務する、
錦重工業という架空の会社ですが、
軍事用のヘリと、原発を作って居る巨大企業です。
三菱重工のような大企業をイメージすると思うのですが、
(映画でも愛知県の設定でしたし)

実際に軍事用のヘリコプターを作って居るのは、
川崎重工三菱重工といった重工系の企業で、
原発を作って居るのは、東芝や日立のような重電系の企業です。

なんとなく、実在しそうですが、
このような企業は日本には無いと思います。

江口洋介さんと本木雅弘さん役は、
大学の同期で元親友位にすれば良かったのでは無いかと
思いました。


http://tenkunohachi.jp/

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