渡部 昇一 (著)「人生を創る言葉」を読むと、明治から戦前の日本人の心意気は欧米に学んだことを知ります。

子供の頃、偉人さんの伝記を
沢山読んだ記憶があります。

とはいえ、
活字の本というよりも、
多くはマンガだったような気がします。

伝記マンガの媒体は、
ちゃんとした本もありましたし、
少年向け雑誌やマンガに掲載された
ものもありました。

さらにお金持ちの友達の家に行くと、
マンガ化された伝記本シリーズが
本棚に並んでいました。

たまに遊びに行っては
読ませてもらうのですが、

とても面白く、その一方で、
とても羨ましかった記憶もあります。


時を経て大人になると、
ビジネス本を読みはじめます。
そして再び偉人さんに触れます。

今度は人生や仕事を学ぶ
格言として学ぶ訳です。

格言を沢山知っている人には教養を感じ、
私もそんな人に成りたいなぁ〜。
と思いつつ、

今から偉人さんの伝記を読むのも辛いので、
ネタ本のようなものが在れば便利です。


という訳で本日は、渡部 昇一 さん著

「人生を創る言葉」

古今東西の偉人達が残した94の名言ー

をご紹介します。


本書を簡単に紹介すると、
偉人さんがこんな事を言ってました。
こんな事をしていました。

という話しを94の名言に絡めて
まとめた物です。

まさに私が求めていたネタ本です。

しかし、
本書は単なるネタ本ではなく、
戦前の少年達が読んでいた伝記を元にした
ネタ本であることがポイントです。


著書である渡部昇一さんの、
他の本を読んだ際に、

戦前、(多くの知的階層の子供達は)
講談社の「少年俱楽部」を読んでおり、
その中で登場する偉人の伝記を読み志を高くした。

といった話しを読みました。

本書はまさに当時の「少年俱楽部」
の伝記を大人向けに編集した、
同じ講談社の国民雑誌である、
「キング」の付録冊子がベースと成っています。

「キング」は、当時初めて100万部を越える
出版部数を誇り、
当時の志のある少年たちは、
「キング」の付録冊子を回し読みしていたと言います。

著者の渡部昇一さんは、
その土地から初めて大学に
進学したぐらいの地方のご出身ですが、
「少年俱楽部」や「キング」といった
雑誌の偉人伝を読むことで、
日本中何処に出ても恥ずかしくない教養と
高い志を得ることができたそうです。

そして驚く事なかれ、

日中で戦争が始まり、
日米開戦も間近に迫っている中、
冊子に登場する偉人の多くは、
イギリス人やアメリカ人です。

リンカーン、ファラデー、エジソン
ダーウィン、フランクリン、フォード
・・・

開戦前とはいえ戦争の暗い時代、
鬼畜米英といわれてた時代のように
想像するのですが、
それは全く違っていて、

多くの国民は、
紳士の国イギリスや自由の国アメリカで
成功し出世した人達の物語を読み、

自らの高い志と夢を持って生きていた。

ということなのです。

著者によれば、
戦後の私たちがイメージするような
暗い時代と成ったのは、

敗戦が濃厚と成ってきた、
昭和18年位からだそうです。

それまでの日本は、
福沢諭吉の「学問のすすめ」や
中村正直の「正国立志編(のちの自助論)」を読み、

自らが勉学に励み、
志を持って成功し社会に貢献する。

といった考え方が中心でした。
大切な点は、

「個々人が志を立て、それぞれの道で偉くなれ」

という思想です。

その先にあったのがイギリスやアメリカの
成功者達だったのです。

敗戦が濃厚になるにつれ、
社会統制が厳しくなり、
全体主義へと変化していきます。

現在の日本は自由の国ですが、
ある個人が大成功を納め、
超大金持ちになるような価値観は
未だ世の中的には認められない雰囲気があります。

本書の帯には、

 誰にでも自分に合った成功への道がある!

と書かれていますが、

本書が伝えたかったのは、
偉人さんのネタ本としての価値ではなく、
戦前は個々人が自由に志を立て努力し、
成功を目指す文化だった。

ということで、
また、そうした価値観への回帰なのです。

最近の日本からは、
ソニーやホンダのような事業が生まれない。
と言われます。

アメリカでは、最も優秀な学生は起業をめざし、
次のレベルの学生は大企業を目指す等とも言われます。

日本でも起業を盛んに支援していますが、
上手く行かないのは、
著者が回帰を願う、

自らが志を立て、努力し成功していく。

といった思想が、
戦後何十年経っても、
日本人の心の中に戻って来ないことも、
原因の一端があるように思います。

ここまでの話しは、
殆ど本書の”はじめに”の部分に書かれています。

その後、沢山の偉人さん達の話しが94個も載っており、
お腹が一杯になるのですが、

本書で大切なのは、
戦前の知識階層は、戦争が始まる直前まで
イギリスやアメリカの成功者達の物語を
読んでいたという事実です。

戦前のイメージが少し変わります。

さて少しですが、
本編で心に残ったところを書いてみます。

・慈悲の涙も科学的に分析すれば
 ただの少量の水分と塩分だが、
 あの頬を流れる涙の中に、
 化学も分析し得ざる尊い深い愛情の
 こもっていることを知らなければならぬ。
 
・・と言ったのは、ベンゼン環を発見したり、
電気と磁気の関係を明らかにした
(つまり発電機の元となる)ファラデーです。
ちょっと畑違いな感もありますが、
感動する文章です。


・商人が商人として立派になろうとするには、
 人として立派なことすることを世渡りの
 方針にしなければなない。

ズルい商売をするなという次元の話ではなく、
真面目に仕事をする者は、仕事の更に上の概念で
道徳など物事を考える事を示唆しています。

この商売には道徳が大切という話しを書いているのが、
「武士道(英文)」を書き5千円札でも有名な
新渡戸稲造です。


・僕は最後まで手を尽くした

・・と言ったのは学生時代のシートンです。

子供の頃は、シートン動物記のオオカミの話しが
大好きでした。

当時留学していた大英図書館は未成年は入れず、
シートンは館長にお願いするのですが、
評議員からの命令があれば・・」
と遠回しに断られます。

評議員というのは、プリンス・オブ・ウェールズ卿や、
時の大統領、大僧正といったイギリスの最高位の3人でした。

シートンは最後まで手を尽くすため、
雲の上の人物であった3名に丁寧な手紙を書いたのです。

結局3名からは丁寧な返事と、
図書館への終身閲覧券が贈られました。

今でも子供が大統領に手紙を書いたりするなど、
ニュースになったりすることがあります。

ある意味不可能を可能にするノウハウの一つです。
こうした手法や成功例を知れば、

努力や情熱は、どんな不可能も可能にできる
というマインドを持つようになると感じます。

そうした意味で当時の「少年俱楽部」や「キング」の
影響は絶大であり、

戦前の日本は、現在とは少し違った日本だったのではないか。

そのように感じた今日の一冊です。
まぁ凄い本です。



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