星新一著「明治・父・アメリカ」を読みました。こんな凄い本は中高生の頃に出逢いたかったです。

中学も3年生の秋となり部活も終えて、
残るは受験勉強というこの時期に、
私は麻雀にハマっていました。

私に麻雀を教えてくれた友人は二人いて、
一人はりゅう君と言いました。
(もうひとりは、おさむ君。)

りゅう君は子供の頃から、
彼の父や兄たちに麻雀を教わっていたのです。

早い話が悪い友達なのですが、
彼は麻雀の他にもう一つ大切なものを
私に教えてくれました。

星新一です。

りゅう君はお兄さんを通じて
星新一を知ったのですが、

面白いから是非にと、
私に本を貸してくれました。

今から30年近く前の話しです。

その後私はまったく麻雀をしなくなり、
(普通は高校・大学性から始めるが・・)

今となっては、
麻雀よりも星新一を教えてくれたことのほうが
遙かに大事な出来事となりました。


・・という訳で、本日は星新一さん著

 「明治・父・アメリカ」

をご紹介します。


得てして少年の知識は、
兄貴を持つ友達や親戚のお兄さんなど、

自分より少し年上の影響を大きく受けます。
決して父や母では無く、ほ乳類の特徴なのだそうです。
(つまり親はなくても、本当に子供は育つのです。)

今にして思えば、
りゅう君が私に星新一を教えてくれなければ、
本書を読むことも無かったかも知れません。

さて、
私が説明するまでもなく、
星新一は短編SF小説の大家です。

東大大学院在学中に父が倒れ、
父の経営する星製薬に入社し、
経営が悪化していた会社を畳みます。
(星製薬はモルヒネを開発するなど、
当時有名な会社だったそうです。)

仕事が一段落したのち病気となり、
病床で読んだ、レイ・ブラッドベリ
火星年代記(火星人記録)』に感激して
SF作家を目指すことになったそうです。
Wikiを参照


本日ご紹介する「明治・父・アメリカ」は、
その星新一さんのお父さんである、
星一(ほし はじめ)さんの物語です。

星新一さんは、
そのシンプルなお名前から、
若い頃はペンネームと信じていたのですが、

本書を読んで父親の名前が”一(はじめ)”で
あることを知り、
”一(はじめ)”の子、つまり、
”New一(はじめ)”という由来であることに
気付きました。


さて本書は、
明治6年に生まれた星一さんが志を立て、
東京に出て専門学校を卒業し、

アメリカに渡り、
苦労しながらもコロンビア大学を卒業。

在学中に現地で出版社をつくり、
赤字続きながらも懸命に努力を重ね、
その後共同経営者に会社を託し帰国し、

星製薬をつくる前の、
生まれてから30代中頃までの様子を、
物語としたものです。


私は毎日読んでいるメルマガで本書を知りました。

アマゾンで注文すると、
星家と思われる古い写真が表紙の新潮文庫が届きました。

何年、
もしかしたら、何十年ぶりに手にする
星新一の本ですが、

久々の星新一という妙な緊張感や、
読み終えるには時間がかかると思われたので、
少し敷が高く、
2年ほど机の横に積読本となっていました。(汗)

そして、
ようやく今年の夏休みの、
帰省の電車の中で読み始めたのです。


私が購入したのは、
平成19年の第25刷でしたが、
初版は昭和53年に出版されております。

つまり私が中学の頃には出版されていたわけです。
あの頃、短編SFだけでなく、

本書も読んでいたら・・、
私の人生が大いに変わっていたかもしれません。
それ程のインパクトを感じてしまいました。

もちろん、星新一の本は当時すでに沢山あり、
読んでも読んでも読み切れなかったのですが、、、


星新一の父、星一は、
明治6年に今の福島県いわき市で生まれました。

星一の父(つまり星新一の祖父)は、
村長や議会議員を努めるなど地元の名士でした。

星家に養子になり、苦労をしながらも
福沢諭吉の「学問のすすめ」を読んだり、
事業を軌道に乗せて、一定の地位を確立したのです。

そんな父の元、星一も小学校入学するなど、
当時としては恵まれた環境下で育ち、
なんと12歳で小学校の先生になります。

最初は実家から少し離れたところで、
先生をしているのですが、
下宿生活だとお金が貯まらないと言うことで、
自宅から通える小学校へ移動願いを出します。

そして当時の金額で80円を貯め、
父に上京して勉強したいと説得をするのです。

父は80円もの大金を貯めた真剣さを認め、
20円プラスして100円という、
まとまったお金をつくってくれました。

少しネットで調べてみると、
明治期の100円は、現在の100万〜200万ほどの
金額になるようです。

この頃の年齢は、今の中学生程度なのですが、
おなじ中学生にして麻雀に明け暮れていた
私とは次元が違っています。

そして上京し、
今の受験予備校のようなところに通います。

いくら小学校の先生をしていたといっても、
中学高校相当の学力が無いのです。
数年の勉強の後、
2年生の学校、
今でいう、短大か専門学校のような学校に入ります。

大学を選ばなかったのは、
短期間で学問を身につけたいと云うことと、
都内の有名な大学の先生が、
アルバイト講師として沢山教えていたからです。

今時、予備校や大学を選ぶ際には、
有名な先生がいることは常識ですが、
明治期にそういったことを考えるということは
凄いと思います。

そして校長先生から「西国立志編」という
学問のすすめ」とならぶ明治のベストセラーを
頂くことになるのです。

その中に「天は自ら助くるものを助く・・」
という有名な一節があり、

原著であるサミュエル/スマイルズ「Self-Help(自助論)」は、
現代でも自己啓発本として有名な本ですが、

この本に記される考え方が、
以降の星一の原動力となって行きます。

そしてこの本との出会いが、
アメリカ行きを志すひとつの理由でもあったと思います。

この時代の学生生活での重要な点は、
今と違って学生の数も少なく、
先生と学生の繋がりは
現代と比べものに成らない位深い点です。

星一は熱心に勉強することによって、
大学の先生という、絶大なコネができたました。
このコネ力は、その後いたる所で発揮されます。


そして19歳でアメリカに向かいます。

いまでこそ、高校性がアメリカ留学するケースも
普通に有る訳ですが、

本書に示される明治28年の統計では、
当時アメリカに渡った日本人は7〜8千名程度で、
うち5千名程度が出稼ぎ労働者です。

働きながら学ぶものが1,250名ほどおり、
星一はこの1,250名の一人と思われます。

太平洋航路の船に揺られて、
アメリカ西海岸にたどり着き、
彼らが仕事として行うのは、
裕福な家庭の住み込み労働者です。

しかし、
子供の頃に怪我をして片眼しか見えない星一は、
要領が悪いと言っては直ぐに仕事をクビになります。

ついには最も条件が悪く、
人使いが荒いと言われたところしか
働き口が残らない羽目になりました。

それでも文句も言わず懸命に働きながら、
いつしか雇い主の信頼を得ていきます。


・・・と、
話しは尽きないのですが、

星一という人の物語のパターンは、

懸命に働き、
一定の成果(お金など)を得て新天地に行くも、
騙されたりして一文無しになるなど困難に遭います。

そのときはくじけず、現地で懸命の努力をすると、
突然運がひらけたり、幸運な出会いがあり、
次に道が開けていきます。

まさに「自助伝」にある
「自ら努力すれば道は開ける」を地でいく行動です。

そして、文中にもありますが、
この国(アメリカ)では、
努力をすれば必ず誰かが助けてくれる。
という確信を生んで行きます。

しかしこの行動原理は、
アメリカに渡る前の日本でも、東京でも、福島でも、
・・変わらないということが本書を読むと分かります。


西海岸では気に入られ、
最後まで住み込みで働いた家族から、
どうしても残って欲しいと懇願されながらも、
アメリカの中心で学ぶため東海岸
ニューヨークに向かいます。

試しに受験したニューヨーク大学は落ちますが、
コロンビア大学にはなんと交渉で入学させてもらいます。
そして学費を稼ぐために懸命に働き、
再び信頼を人生が好転していくのです。

そして、
新渡戸稲造野口英世ら現地の日本人だけでなく、
フェアチャイルド家なども交流をもち、
日本に帰国の際には、
コネで一等船室のチケット手に入れ、
現金は一文も持たず帰って来るのです。

もちろん、
当時アメリカにいた全ての日本人が、
星一のように勤勉で前向きだった訳でなく、
現状に甘んじたり、欲に溺れる日本人も多かったそうです。


普通、男親である父は自分の事を語らないし、
男の子は父の事を語らない、
だから本書を書くことはとても難しい。

星新一さんは本文中で何度も述べています。

本書を書こうとするまでは、
父の昔話しは殆ど知らなかったと言うことですが、
少し間違えば、身内の自慢話になってしまう可能性もある
内容をあえて本にしたというのは、

父である以上に、
星一さんの偉業というか、
生きる上で参考になる点の多さを、
後世に伝えたかったからだと思いました。

本書に示される、
星一の凄さを書き出すときりがなく、
成功する男の伝記・現代のビジネス本として読んでも
参考にすべき点は多々あると思います。


本書を読むと、
当時多少恵まれた家庭だったとはいえ、
明治期に一般に日本人がアメリカに渡り、
無事に大学を卒業するなどの成果を上げて帰って来る。

こんな凄いことをどうやって成し遂げたのか。
という疑問がリアルな答えとして帰って来ます。

星一は潤沢な資金やコネをもってアメリカに渡ったのではなく、
なにも持たず、全て現地調達を原則として、
勤勉さ、誠実さ、目標への意思、

そんな日本的精神力をカバンに詰めて
アメリカに渡ったのでした。

そんな星一の姿こそ、
成功する男の行動原則だと感じました。

本書を読みながら、
彼の行動原則を真似すれば、
絶対に成功できると確信しました。

つまり若い頃、読まねば成らない本は、
この本です。

本当に中学生の頃に読みたかったです。
本当に凄いと感じた今日の一冊です。!!



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