橘玲著「亜玖夢博士のマインドサイエンス入門」は、読んだ後味が悪い所もありますが、お勧め出来る一冊です。

本日もまた”超”積ん読本をご紹介します。
約3年間も熟成させてしまいました。(汗)

・・という訳で本日は、橘玲さん著

「亜玖夢博士のマインドサイエンス入門」

をご紹介します。

本書が出版されたのは2010年3月のことで、
私は2011年8月に購入しました。

私は橘玲さんの本が好きで、
何冊も読んでいるのですが、

いかんせん真面目で内容が重い本が多く、
読むに当たって若干の躊躇というか、
それなりの気合いが必要です。

しかも本書は、
表紙からして不気味な印象に加え、
文字数も多そうです。

相当な気合いが要るなぁ〜と思い、
ときおり表紙を眺めつつ、
3年経ってしまいました。

本書を購入したきっかけは、
「亜玖夢博士の経済入門」
を2011年の8月に読み内容が面白く、
その後即買いしました。

↓当時の記事はこちら
橘玲「悪玖夢博士の経済入門」を読みました。 - つれづれなるまゝに、日ぐらしMacに向かいて・・・


まったく同じシリーズ(構成)の本
と思って読み始めたのですが、
ちょっと違っていました。

「亜玖夢博士の経済入門」は、
1章1テーマ簡潔のショートストーリー的な
内容になっているのに対し、

「亜玖夢博士のマインドサイエンス入門」は、
1章1テーマは同じですが、
本全体を通じて小説となっています。

章立てを紹介すると、

 第一講 認知心理学
 第二講 進化心理学
 第三講 超心理学
 第四講 洗脳
 第五講 人工生命

という構成になっており、
テーマは章ごとに変わるのですが、
小説としての流れや登場人物は引き継がれます。

導入部分は、
引きこもりとなった高校性が主役です。
何故引きこもりになるのか、
どうしたら引きこもりが治せるのか、

高校性自らが、心理学を用いて
自分の病気を分析しようとするのですが、
亜玖夢博士はその過ちを正していきます。

後に高校性は、亜玖夢博士の処方箋で
引きこもりから治るのですが、
恐ろしいことに、
心理学を利用した振り込め詐欺を考案し、
起業してしまいます。

そして振り込み詐欺会社はどんどんと進化し、
最後は洗脳を利用した一大企業となります。
しかし同時に国家や地下組織と利害が対立し、
崩壊して終わりを迎えます。

私は毎晩、1章のペースで読み進め、
読み終えるまで5日程かかったのですが、
本書が全編を通じて小説だったことに気付いたのは、
8割方読み終えた頃でした。汗)


特に冒頭の部分は、
引きこもりや振り込め詐欺など、
身近な社会問題をテーマにしており、
関連する心理学的な解説とあわせて
興味深く読み進めることができるのですが、

やはり内容が(詐欺など)ダークということや、
途中からは、結構えぐい描写も含まれるため、
寝る前に読んむと、
あまり気持ちの良い本ではありませんでした。

印象に残ったのは
例えば、人と猿は驚くほど似ているという話題です。
霊長類の研究は人間(社会)の研究のために
行っているそうなのですが、

以下本文の一部抜粋ですが、

 サルにとってもっとも大切なコミュニケーションは
 毛づくろい(グルーミング)だ。
 お互いにグルーミングすることでサルたちは親愛の
 情を伝え合う。群れのオスにとって最高の褒賞は、
 ボスザルから毛繕いをしてもらうことだ。
 (p86より)

とあります。

仕事でも、
上司が肩もみをしててきて「頼むよ!」
とか、面倒な仕事を頼まれることがありますが、
人間の肩もみは、サルの毛繕いと同じで、
褒美と引き替えに、面倒な仕事を行うわけです。
この状況は、サルと全く同じです。


他にも印象的なのは、
脳だけでなく脊髄も考える。という話題です。

例えば、
コンロにかけたヤカンが沸騰し、
火を消そうとする際に、

 視覚情報→情報が脳へ→脳が判断→身体が動く

と考えがちですが、
実際は脳に情報が行く0.35秒前に、
身体が動いているそうです。

脊髄反射という言葉は聞いたことがありますが、
(例えば熱い物を触って、急に手を引っ込める)
生理的なものだけでなく、思った以上に
身体の動作に関係しているようです。

ただし、こうした話しの説明は、
カエルの頭を切って足を動かすとか、
犬の脳を空っぽにして・・
・・といった気持ち悪い実験に展開するのですが、

本書を読んで、後味悪くする要因の一つに
なっています(仕方ない面もありますが)。


本書の最後に橘玲さんが次のような
言葉を記しています。

 本書は近年のマインドサイエンスの成果を小説に
 したら面白いのでは無いか、というアイディアから
 始まった。ここに登場する不思議な話の数々は
 たんなる筆者の思いつきではなく、急激に進歩する
 脳科学分子生物学情報科学・工学が実現
 もしくは実現可能にしたものばかりである。
 以下に主要な参考文献を挙げておく。
 (p316より)

とあり、
真面目な科学の情報をベースに
書かれたことが分かると思いますし、
著者の橘玲さんの云いたいことが伝わって来ます。

参考文献には、
面白そうなタイトルが列挙されているのですが、
私は時間が無いので読めそうにありません。涙)


最後に、
特に本書の主題となる心理学は、
実生活との結びつきが多く、
本文の最後の亜玖夢博士のセリフ

「知識は決して裏切ることはない。
 それを忘れんようにしなさい」

は心に染みる今日の一冊です。


追伸)
 本書の「亜玖夢博士」は名前とは違って、
 物知りのおじいさん的なキャラクターです。


※こちらは文庫本です。
 (内容が詰まった本ですので、
 読むなら単行本が良い気もします。
 ちょっと高いですがお金に見合う
 内容の本と思いますよ。)


今日のアクセス:277,676