和田秀樹著「テレビの大罪」は、テレビの問題点を鋭く指摘する、秀逸な一冊です。かなりお勧めです。!!

度々こちらにも書かせて頂いていますが、
私はアナログ放送の終了と共に、
自宅でテレビを見ることを止めました。

ですから、今は馴染みのラーメン屋さんか、
実家位しでかテレビを見ることはありません。

しかし、そんな私でも、
お馬鹿なバラエティー番組も含め、
テレビが嫌いなわけではありません。

意志が弱くて、延々とテレビをみてしまう
ものですから、
時間を作るために思い切って、
テレビを見るのを止めてみたのです。

どれぐらい続くのか自分でも疑問でしたが、
未だ続いています。


・・・という訳で、本日は和田秀樹さん著

 「テレビの大罪」

をご紹介します。

最初に書いたとおり、
テレビは見ませんが、大好きです。
ですので、本書を購入して、大いに同感。
というのは違います。

さて、
著者の和田秀樹さんは
東大の医学部を卒業し、精神科医として
活躍をされています。
その一方で、大学時代から塾講師としても
実績を上げており、教育者としての顔も
持ちます。

私が毎日テレビを見ていた頃は、
よくテレビに出演されていたのですが、
本書によれば、最近はあまりテレビに
出ていないそうです。
コメントを頼まれても、

「よく知らないから」と断ると、
奥様から、

誰もニュースなんか録画しないから
言いたいことを言えばいいのよ。

・・と言われるそうです。
一般的には正しいかもしれませんが、
テレビの影響をよく理解している
著者は、慎重な姿勢を崩しません。


本書は2010年8月の出版です。
当時の出来事を多く話題にしています。

しかし基調となる課題は未だ大きな改善もなく、
今読んでも違和感を感じる事はありません。

実は本書は人間ドックの待ち時間を利用して
読んだのですが、
著者がお医者さんということもあり、
本書の内容も医療できな話題が多く書かれています。
場所が病院ということで、妙なリアル感を
感じながら読みました。


本書の最初の話題として、
テレビに出る若い芸能人やモデルが痩せすぎている
問題を指摘し、

日本人は飢餓である。

と言い切ります。

すこし大げさでしょ。と思う訳ですが、

日本では拒食症による栄養失調が原因と考えられ、
亡くなる若い女性が、年間100人もいるそうです。

特に18歳未満の成長期の女性が痩せすぎだと、
臓器に影響を及ぼし、
不妊の原因となる可能性があるそうです。

それにも関わらず、テレビ(雑誌もそうですが)では、
痩せてる女性達を数多く番組に登場させます。

テレビは、判断力が十分でない子供や若者も多く見ています。
影響力は量り知れません。

私も数年前にニュースになったことを覚えているのですが、
ヨーロッパのモデルショーでは、BMI18以下の
痩せているモデルがファッションショーできないそうです。

3人のモデルがファッションショーに出場禁止、理由は「やせすぎ」 - GIGAZINE
↑参考記事です。これでも細すぎですが。。


そういった欧米での意識に比べ
日本は遅れていると問題点を指摘します。


本書ではこのような問題点を8項目示しています。

たとえば、医療事故の過剰報道による問題では、

 どの名医にも「初めての手術」がある

といい、

 医療ミスとよばれる物の一部は、
 実は医療技術の進歩のためには避けられない
 ものなのです。

と言い切ります。

手術をうけるほうの、一般人の私からすれば、
分かっちゃいるけど、それを言っちゃお仕舞いよ。
・・と感じる面もあるのですが、

誠実に医療に取り組む医師が、避けられない医療事故で、
過剰報道により取り上げられ、罪を負ったり、
そうしたことがきっかけで、
医療崩壊するのは市民の誰もが望むところではありません。

こうした本書の中で、特に心に残ったところは、
飲酒運転の事故報道です。

飲酒運転に対する風当たりが厳しくなったのは、
2006年に福岡で起きた3人の幼い子供が亡くなった
事故が原因です。
福岡市の職員が飲酒運転をし、玉突き事故をおこし、
ぶつけられた車が海に落ち、事故を起こした職員は
逃走しました。

本書では福岡のこの事故を例に挙げ、
決して飲酒運転の悲劇を起こしてはいけないといいつつも、

 一方では、飲酒運転による死者は突出して多い
 訳ではありません。

と2009年度の死亡事故4773件中飲酒運転は
292件だったデータを示します。
最も多いのは、漫然運転(携帯の利用等含む)
の728件ですが、携帯電話の罰則規定を上げる向きはなく、
飲酒運転の処罰だけがどんどん厳しくなります。

結局、テレビ的に視聴率が取れる飲酒運転を
多く報道するので、
警察や政治はそのような動きをするのです。

この例一つとっても、
テレビと行政の問題を浮き彫りにするのですが、

しかし元をたどれば、タバコのように
お酒に関してもTVCMを止めるなどすれば良いのに、
そうした動きもありません。
何かしらの政治圧力や、TVCMなどのお金が
動いているかもしれません。


そして最大の問題は、

 飲酒運転が減ると自殺者が増える

という説です。

日本人が欧米に比べ心理カウンセラーなどが
少ないのは、居酒屋文化がその役割を担って
いるからではないかとし、

飲酒運転を気にし、
お店で酒を飲むことを止めれば
自宅でお酒を飲むことになります。
そうすると、アルコール依存になりやすく、
アルコール依存は自殺の大きな原因なのです。

と示されます。

つまり言いたいことは、
2009年度の自殺者は3万2千人ほどいるのですが、
どちらを減らすのが有益か。ということです。

加えて、お店でお酒を飲まなくなると、
地方の経済が回らなくなったり文化が途絶える
ことに繋がりかねません。

私の田舎でもそうですが、
今、地方で飲酒の取り締まりで捕まってしまうのは、
夜飲んだ後ではなく、翌朝の出社時の取り締まり
と言うのです。

何故かというと、
飲酒運転が少なくなったにもかかわらず、
警察は検挙率を維持もしくは増やすために、
朝取り締まりを行う、不意打ちをしているのです。

会社で言えば売り上げを上げるとか、
KPI指標を挙げるということなのですが、
私は本末転倒というか、ちょっと違うなぁ〜。
と思っていました。

本書では和田秀樹さんが知る限り一番ひどい県として、
福島の事例が紹介されます。

一方カリフォルニアのワインの産地では、
試飲をしながらワイナリーめぐりをするそうです。
もれなく飲酒運転となるのですが、
地元警察は多少のことは目をつぶっているようなのです。

和田秀樹さんも私も、
決して飲酒運転を認めるわけではないのですが、

言いたいことは、
相反する二つの悪があったとき、
国民の生活や将来のために、
どのように政策の舵を切るか。
そういった話しだと思うのです。

高度な政治判断が必要なのですが、
テレビの視聴率競争のための過剰報道で世論が誘導され、
政治が誤った方向に進むことがあるのではないかと、
感じずには居られませんでした。

お酒の話しと言えば、
自殺をしてしまった中川元財務大臣
裸で保護されたSMAP草薙剛さんの話題も書かれます。
どちらも精神科医として、
アルコール依存症ではないかと指摘しています。

よくこんな事を書いた本が出版できたものだ。
と、和田秀樹さんと出版社を尊敬してしまいましたが、

本書では、逆にそうしたテレビ報道はなく、
お酒に対する甘さだけが目立つ。と書かれています。

本書では、私論・暴論を交えつつ問題提起するための
書とし、あえて乱暴な物言いをした。

とありますが、
なかなかここまで書くことが出来る人は
いないのではないかと思います。

他にも沢山刺激的な内容があり、
最初にも書きましたが、
基本的な部分では出版時点から、
大きな変化がないと思われるため、
今読んでも考えさせれる内容です。

著者が最後に指摘するのは、
日本人が高齢化しているのに、
テレビの内容は何時まで経っても成熟しない点。
また、テレビは一般論(正論)のふりをして、
かなり極論をいうことです。
そして、そのテレビが日本国民のレベルを下げ
誤った政治が行われる原因に繋がっていくのです。


テレビが大好きという人も、
私のようにテレビが嫌いという人も、
良識有る多くの大人の方に読んで頂きたい今日の一冊です。



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