宇佐美典也著「肩書き捨てたら地獄だった - 挫折した元官僚が教える「頼れない」時代の働き方」を読みました。

本日は、宇佐美典也さん著

「肩書き捨てたら地獄だった
 - 挫折した元官僚が教える「頼れない」時代の働き方」

をご紹介します。

本書を知ったのはビジネス系雑誌の、
本の紹介欄だったと記憶しています。

タイトルからも分かるとおり、
元キャリア官僚の著者が役所を辞め、
独立して今に至るまでの苦労話を綴っています。

著者は東大を卒業し、
経産省のキャリア官僚となりました。
数年の下積みを経験し仕事を覚えたのち、
最後の数年は、数百億にのぼる半導体
プロジェクトを仕切っていたそうです。

著者は私よりも一回り若く、
しかも、数百億のプロジェクトを仕切った
年齢が30歳前後ということで、
民間企業では無いと思うのですが、
それがキャリア官僚というものだと、
本書を読んで改めてその凄さを感じます。

著者はもともと孫正義氏や三木谷浩史氏に
憧れていたということもあり、
震災を気に独立をしました。
その時に、官僚転職者によくある金融系企業や
商社の面接も受けたそうですが、
ゼロから起業する道を選びました。

そして、そこから先が、
タイトルにあるような、
地獄の生活へまっしぐらです。

貯金を食いつぶし、
最後は部屋の中にいるゴキブリと会話
するような精神状態にまで落ちて行きます。
その描写を読むと、
心を病んでいる人そのものです。

読み手としては、その地獄から
どのように立ち直ったのか、
一番詳しく読みたいポイントです。

きっかけとなった出来事が
幾つか紹介されています。

一つは著者のブログです。
http://usami-noriya.com/
↑こちら

今はタイトルが違うようですが、
当時書いていた
「三十路官僚のブログ」は結構な人気で、
退職前に書籍化され出版されるなど、
評価を受けていたようです。

私にはそんな独立前の成功も、
独立後の谷が深かった原因に思えますが、

再起のきっかけとなったのも、
やはりこのブログでした。

飲み会でたまたま知り合った
キャバクラの女性の成功術をブログに投稿したところ、
成果報酬でコンサルをして欲しいというキャバ嬢から
依頼が来て、コンサルが成功し暫く食いつなぐことが
できたそうです。

ブログにそんなネタを書くことが
ためらわれたと言いますが、
本を読んでいる私でさえ、
元官僚のブログにそんなことを書くのか。
と感じます。
本書にもありますが、
知人の反応も酷かったものでしょう。

そして著者の凄いところは、
官僚がキャバ嬢の営業を教えて、
それが上手く行くということです。

その当時の心境を、
「どんな状況になろうが生き抜いてやる」
「サバイバル」
と表現していますが、
結局、独立して、その後成功するかどうかは、
このようなプライドを捨てた、
生き残るための強い意志が持てるか
どうかにあると感じます。

その後、元官僚としての知識やスキルが活かせる、
エネルギー関連のコンサルの仕事が
舞い込むようになり、
徐々に人脈も広がり、
いくつかのプロジェクトを立ち上げ、
今に至ります。

私からみると、
東大卒元キャリア官僚、人気ブログ、そして出版・・
独立にこれ以上ない条件がそろって
いるようにも見えますが、
それでも独立して安定するまでに、
コレぐらい大変な思いをするんだ。
と独立がどれくらい大変かが本書をよみ考えます。

世の中独立して成功した人が書いた本は
沢山ありますが、
ここまでボロボロの状況を表現した本も少なく、
そういった意味では貴重だと本だと思います。

・・とこれが主に前半で、
これを読むだけだと、単なる苦労話。
サクセスストーリーに過ぎません。

本書の価値を上げているのはこの先、
後半部分と思います。

そこに書かれるのは、
現在の雇用形態がどのようにして生まれ、
我々労働者はどのような考えで生きていくべきか。

そんな事をテーマに様々な資料を用いて、
さらにサラリーマンを越えた目線の高さ
で概要を説明しています。
しかも分かり易いのです。

もちろんその手の専門書に比べれば決して
厚い内容では無いとは思いますが、
本書におけるこのパートは、
元官僚の力を遺憾なく発揮しているように
感じます。

例えば現在の雇用形態は、
戦後の労使交渉を経て、
労働組合が業界ごとの横の繋がりから、
会社単位に細切れになり、
そして会社と協調するようになってから、
企業の生産性が伸び、
日本の製造業が大きく飛躍します。

しかし製造業からサービス業への転換期
を迎えた1990年代で、成長はストップする
様子を詳しく解説します。

また、日の丸半導体と呼ばれ、
アメリカを追い越し、
世界一を誇った日本の半導体産業が、
アメリカの国策により衰退し、
その後韓国や台湾に抜かれ、
現在の無残な状況にいたる顛末が、
詳しく示されます。

一個人はもちろん、
半導体企業のトップですら、
どうにもならなかった事態です。
半導体は特に筆者が担当をしていたこともあり、
詳しく書かれています。

他にも、中絶が合法化されるとともに、
少子化が進んだことや、
日本の国債が15〜30年程度で崩壊する話題など、

キチンとしたデータに基づく事例を紹介し、
大局的な観点から、個々人の働き方を考える
内容になっています。

確かに、
その手の専門書を読めば書いていそうな話
ではありますが、
忙しいサラリーマンや、
そもそも興味が無ければ読めない内容が多いと
感じます。

こうして日本の基礎と言うべき内容を包括的に
まてめ、ファクトから戦略を考えるという
本書の構成はとても好感が持てます。

そうして個人がとるべき戦略の要となるのは、

「アンチグローバルマッチョ戦略」というもので、
 目指せMBA、目指せグローバル、
 目指せ高給取りというのは、
 一部の強者のみ利益が得られるレッドオーシャン
 なので、安易にそこを目指さない。

という筆者のオリジナル戦略と、

ブログなどを通じた、セルフブランディングです。

結局の所、
最初にキチンとした職場に勤め、
ビジネスマンとしての基礎を身につけ、
暫く働いて恩返しをしつつ、
スキルを磨き、セルフブランディングをして、
世の中の変化や退職に備えつつ、
時期が来たら独立すればよいのではないか。
というように受け止めました。


本書の最後には、
結局独立して苦しい時に助けてくれたのは、
地元の知り合いだったり、
学生時代の友人だったりする。
という話しがあります。

本当にお金が無くて困っていたとき、
Facebookに書き込みをしたら、
何年も合っていなかった友人が見つけ、
その友人のお母さんがご飯を作ってくれた話
などが紹介されます。
ありそうな話しで心温まるのですが、
しかし独立の厳しさが印象に残ります。

そのような訳で、
この先、独立を目指す人には是非とも
読んで欲しいですし、
働き方に悩む方にもお勧めしたい、
今日の一冊です。



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