竹内 謙礼、青木 寿幸 著「貯金兄弟」は、主人公の兄弟の対比がリアルで、心に残るお金小説本です。

本の紹介をするのは久しぶりですね。汗)

毎日、淡々と本は読んでいて、
読み終える度に、紹介したいとおもうのですが、
なかなか筆が(ブログが?)進みませんでした。

しかし今日ご紹介する本は、
これは是非ともブログで紹介しなくては!
と、久々に衝撃を感じた一冊です。


・・という訳で本日は、竹内謙礼さん、青木寿幸さん共著

 「貯金兄弟」

をご紹介します。

本書はお金の知識を、小説風に仕立てられた物語で学ぶ。
そんなテイストの本です。


小さい頃に父を亡くし、
その後再婚した母をも亡くし、
義理の父のもと、厳しい環境で育てられた二人の兄弟、
兄の宗一郎と、弟の翔大が主人公です。

二人は苦労して成人し、
大学を出て一流広告会社に就職し、
エリートコースをひたすら走り抜ける兄と、
勉強は苦手だからと、
高校卒業後、東京都の消防に就職した弟の、
お金に関する経験・知識の対比が表現されます。

お金に奔放な兄は、給料は高いのですが、
浪費が多く借金漬けの生活を送っています。

一方弟は小さい頃から倹約家です。
高校卒業時の進路を決める歳に、
大学に入らず公務員になると言います。

若くしてお金に関する知識を学んでいる弟は、
平均的な大学を卒業後サラリーマンになるケースと、
高校を卒業して直ぐに公務員(消防署員)に
なるケースを比較すると、
高校を卒業してすぐに消防署員になったほうが、
生涯年収が3,000万も高いというのです。注)

大学に進学するメリットはお金だけではない。
と説得する兄ですが、弟は聞く耳を持ちません。
結局、消防署員に就職をします。


注)参考URL学歴による生涯年収を調べた調査結果です。
  残念ながら公務員と大卒の比較はありません。

サラリーマンの生涯年収・生涯賃金特集-年収ラボ

↓こちらは厚生労働省の統計データ
http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/kako/documents/21_p284-324.pdf


このように本書では、
小説風の文体をとりながら、
弟のセリフを通じて世の中のお金に対する知識を
レクチャーします。


最初に登場するのは学歴と生涯年収の話題で、
次に登場するのは、保険の話題です。

一般的な給与所得者にとって、
保険は住宅の次に大きな買い物になること。
保険といえども、金融商品の一種であること。
さらに、どのような保険が得で、
どのような保険が損であるかなどが説明されます。

特にインターネット保険(ネット保険)が決して、
お得な商品ではないことは本書を読み
はじめて知りました。

本とか嘘か解りませんが、
保険外交員は、保険屋さんのもっともリスク要因
である、加入者の健康状態を、顔色や会話で
探っているのだそうです。

ネット保険は外交員を雇わなくて良い分だけ、
コストがかからずお得と思っていたのですが、
ネットでの自己申告が基本と成るため、
顔色をみて判断するという、
リスクヘッジをするのができないことによる、
リスクコストが上乗せされているのだそうです。

へぇ〜。という感じです。


さらに、お金のため方の基本(余ったお金を
貯めるのではなく、最初に貯める金額を除いて
生活する)や、住宅ローンや銀行との付き合い方、
最終的には、住宅購入と賃貸のどちらが得か。
といった究極のテーマともいえそうな内容も
網羅しています。


単にお金の知識という意味では、
突筆するような内容は無いかも知れませんが、
本書が秀逸なのは、人物描写がリアルで、
加えてストーリーが面白い事です。

例えば本書の設定である、
兄が一流企業に勤め、お金使いが荒く、
弟が堅実な公務員で、倹約家という設定ですが、

私にも兄弟(妹)がおりますが、
本書の設定と殆ど同じ状況となっています。

兄である私はIT系の企業に勤め、
それなりに稼いではいるつもりですが、
宗一郎と同じように、お金使いが荒く、
借金生活を送ったこともあります。
本書と同じようにその問題を解決したのは、
しばしの地味な生活と昇給でした。

一方私の妹は公務員をしていて倹約そのものです。
給料は私よりも安いですが、しっかり貯金をしています。

同じ親から生まれ、似たような境遇に育っても
その性格やお金の使い方は正反対です。


本書で唯一間違っていると思うのは、
消防官になり、続けて行くのは簡単な事では無い
ということです。


兄である宗一郎は収入は多いもののお金に苦労し続け、
倹約家の弟である翔大は、お金の知識をフルに生かし
堅実にお金を貯めていきます。

そして、ある事件がきっかけで兄の彼女までも、
賢い弟に取られてしまうのです。


そんな訳ですから、兄と弟は絶縁状態になります。
しかし、子供ができたことで、
再び、兄弟付き合いを再開するのです。

中年になった二人の性格の違い、
生活の違いはさらに極端さを増します。
都心の家賃が20万もする賃貸マンションに住む兄と、
家賃が3万円の公団住宅に住む弟です。

しかし、弟は長年の貯金や義理の父の支援を得て、
一軒家を購入するというのです。

浪費家の兄には貯金もなく、
しかし見栄っ張りの彼らが欲しい物件は、
都心の超高額マンションです。
銀行の融資にも限りがあり、購入することができません。

弟が家を買うことにショックを覚えた兄宗一郎は、
生活を改め借金地獄からは逃れます。

ここまで読んでいると、この後のストーリーは、
どう考えても、弟が人生の勝者となるエンディング
が容易に想像出来てしまい、
同じダメ兄としては面白くありません。

物語ここから急展開を迎えるのです。

良かった弟翔大への恨みが募り、
弟を陥れようとして事件が起きます。

どんな事件かは本書を読んで頂くとして、

本書の価値を最高に高めているのが、
事件の後の最後のどんでん返しです。

どうしようもないエンディングとなることを
予想しながら読み進める兄は、退職後夫婦でグアムに住み、
娘は結婚をして海外住まいです。

決して豊かではありませんが、
企業年金等でそこそこ幸せな暮らしをしています。

一方弟は、長野の田舎で時給自炊の質素な暮らしです。
育てたキノコを妻が売って生活しています。
そして娘は地方でデザイナーの仕事をしていて未だ独身です。

兄の起こした事件によって、弟は消防署を辞め、
そして家も売り払い、長野に移住したのでした。


兄は、弟を羨ましく思い、
そして罠に陥れたことを詫びるのですが、
弟はそんな兄を許します。
そして、このようなことを言うのです。

「実は俺、兄さんの事がうらやましかったんだよね」

兄はそのセリフが信じられません。
欲しい物をどんどん買い、おいしいものを食べる。
臆病で小心者の俺にはできなかった。
と弟翔大は心の内を吐露します。

弟は決してクレバーだから倹約家だったのではなく、
お金が無いという恐怖に耐えられなかったから、
倹約をしていたのです。

必要な時にお金を使えば良かった。
そうすれば、娘の才能をもっと伸ばしてやることができた
かもしれない。
倹約をしてお金を貯めることばかり考えているうちに、
友達は去っていき、下を向いて生きることになった。
・・弟は言います。

このようなやりとりがあって、
最後に兄と弟は再び仲を取り戻して物語は終わるのです。


結局本書は、数々のお金にまつわる知識を私たちに
教えつつお金を貯めることを説きつつ、

しかし一方で、
お金を貯めることが目的と成ってしまった
人生は愚かであると言うことを説いています。


お金の知識が無い人が読めば勉強になりますし、
普段お金の勉強をしているひとにとっても、
小説として読みやすくて、面白い内容です。

結局、お金は貯めることよりも、
適切に使うことがもっと大切である。

そんな事を感じた今日の一冊です。
オススメです。!




今日のアクセス:400,338