役所広司主演「日本のいちばん長い日」を観て、終戦をするということは大変なことだと学びました。

毎年、8月の旧盆の時期に帰省をします。
そして普段は見ない、
テレビ三昧のグータラな日々を過ごします。

起きてニュースを観た後、
昼は高校野球
夜はドラマ、
そして深夜はHNK(の科学番組)の再放送

だいたいこんな感じです。汗)

そんなテレビ三昧の中、
今夏は、一つ心に残ったCMがありました。

それは、役所広司さんのラーメンのCMです。

http://www.maruchan.co.jp/cm/post_144.html

※参照URL 東洋水産の「正麺」という商品です。


個人的に役所広司さんといえば、
昨年「蜩の記」という映画で、
最後は藩の責任を一人で負って、
切腹をする立派な武士の役を演じたのが印象深いです。

・・ところがこのCMは、
適当な貧乏そうな侍姿で、
ラーメンをすすって居るわけです。

あの立派なお侍さんのイメージが崩れ・・・
なんとも面白おかしなギャップを
CMを観る度に感じて、
印象に残ってしまったのですね。


・・という訳で本日は、役所広司さん主演映画

 「日本で一番長い日」

をご紹介します。

「日本で一番長い日」が、
8月15日の終戦の日※だったことは、
ずいぶん若い頃から知っていました。

テレビなどのメディアで知ったのだと思います。

※なおアメリカなど連合国軍にとっては、
 日本政府が、ポツダム宣言受諾の降伏文書(休戦協定)に
 調印した9月2日というのが終戦日という定義です。
 実際8月15日を過ぎても戦いは有ったわけです。


この誰もが納得するような上手い表現を考えたのは、
半藤一利氏で、氏の本のタイトルと知ったのは
大人になってからのことです。

半藤一利氏は、元文藝春秋の編集長などを務め、
昭和の歴史に造詣が深く、特に太平洋戦争(大東亜戦争
関連の数々の著作があります。

この半藤一利氏の原作をもとに映画は作られました。


映画「日本のいちばん長い日」は、
1967年に一度製作されており、
2015年版である今回が2回目の映画化となります。

私は1967年版は見たことが無いのですが、
ネットで読んだ解説によると、
2015年版と違って、
昭和天皇(67年版では松本幸四郎さんが演じる)が殆ど
出てこない演出となっているようです。

2015年版では、本木雅弘さん演じる昭和天皇が頻繁に登場し、
大事なセリフも多く、映画のストーリーを支える
重要人物と成っています。

恐らく天皇の発言は、公式な記録として公開されていないため、
様々な人のインタビューを元に、原作本は作られたのだと思います。

しかし1967年版を製作した昭和42年頃は、
終戦から20年程しか経って居らず、
まだまだ戦争の記憶が色濃く残っていることや、
天皇の表現もタブー視されていたためということで、
昭和天皇の演出は薄い物になっているのだそうです。

しかし、平成の世となり、天皇も代わり、
このような映画を作ることができるようになった訳です。

私は太平洋戦争(大東亜戦争)に興味をもっており、
終戦という作業がいかに大変かは、他の文献を読み
知っていました。

しかし、それもやはり大人になった割と最近の事です。
若い頃の戦争のイメージは、
皇居前で人々が正座をして頭をたれる写真を背景に、
天皇陛下玉音放送が流れ、
マッカーサーが厚木にやってきて・・・

というテレビで放送されるようなものです。
ですから、8月15日を迎え、
自然と軍隊が戦いを止めて撤収した位の感覚です。

しかし実際の戦闘や軍隊の武装解除が容易に進むわけはなく、
8月15日を過ぎても戦争をしていた人達もいた訳です。
特にロシアとの交戦状態は継続していました。

実際、8月15日の玉音放送の後、
数名の皇族が命がけで最前線に向かい、
現地の司令官達に天皇の言葉を継げ、停戦を説得しています。


昭和20年になると、負け戦が続き、日本には殆ど兵力が無く、
女子が竹槍でB29を打ち落とすようなバカな訓練をしていた。

そんな印象を私たちはもっているのですが、
実際に戦線は縮小し、海軍の船は殆ど無くなっているとは言え、
まったく無傷の陸軍部隊も万単位で温存されていたわけです。

そして実際の映画でもそのようなシーンが登場します。
特に戦国時代のような武器を、鈴木首相が見学するシーンでは、
これを使って戦うのか。
・・と劇中の鈴木首相を初め、観た誰もが思うでしょう。


そんな手つかずの戦力を保持しながら、終戦を迎える陸軍。
彼らはまだ負けた気になっていないのです。

その陸軍のトップである阿南陸軍大臣
そして、その苦悩を役所広司さんが演じるのが、
映画「日本のいちばん長い日」です。

ちなみに阿南陸軍大臣は、8月15日の早朝に切腹をしました。

役所広司さんは最近、切腹ばかりしているのですが、笑)
「蜩の記」では直接切腹のシーンは無く、立ち去って映画は
終わりました。
しかし、今回の映画では切腹シーンがクライマックスにあります。

Wikiによると、介錯をこばみ(映画でもそのシーンがあります)、
午前5時半に切腹、7時10分に絶命したそうです。
いわゆる出血多量による死亡です。

切腹というのはあのようなものかと思う、
印象深いシーンでした。


映画「日本で一番長い日」は、
本木雅弘さん演じる昭和天皇終戦工作・活動を期待し、
山崎努さん演じる鈴木貫太郎に組閣を
説得するところから始まります。
当時77歳という高齢を理由に首相になるのを断るのですが、
天皇の説得には叶いません。

この山崎努さんが良い感じなので、
てっきり今回の映画の主役は山崎努さんかと思いました。

ストーリを進める中心人物ではありますが、
主役は、先に書いたように、
鈴木内閣の組閣にあたり選ばれた、
役所広司さん演じる阿南惟幾陸軍大臣です。

ちなみに、主要登場人物である3名の年齢は、
昭和天皇、当時44歳を本木雅弘さん49歳が演じ、
鈴木首相、当時77歳を山崎努さん78歳が演じ、
阿南大臣、当時58歳を役所広司さん59歳が演じます。

撮影時の年齢などを考慮すると、
かなりリアルに役者さんが再現されているのでは
ないかと思いました。

鈴木内閣組閣後、開戦からアメリカ大統領だった
ルーズベルト死去するのですが、
その追悼文を放送する、シーンがあります。

後にTIME誌に掲載され、
鈴木首相の武士道精神を世界から賞賛されるのですが、
当時海外からも評価された部分が映画では表現されず、
知らない人には、
このエピソードは分からなかっただろうと思いました。
ちょっと残念です。

この後映画では、ポツダム宣言の受諾に関して、
ひたすら閣議が行われます。

そしてポツダム宣言受託を反対し、
最後まで戦争継続を主張するのが阿南陸軍大臣です。

阿南陸軍大臣の立場で、早期に終戦や、
ポツダム宣言受託を表現すれば、
陸軍大臣を更迭されるか、命を狙われ、
その結果、鈴木内閣が倒れ、
戦争中止の判断が出来ない可能性があったのです。

実際、早期終戦を表明する米内海軍大臣は、
陸軍に命を狙われるというシーンもあります。

そんななか、最後の最後まで戦争継続を主張するも、
そして天皇の聖断により、戦争終結の方向に
決まっていきます。

これも何となく、
当時は天皇が神様の時代なので、
天皇が「戦争中止」
・・といえば簡単に戦争が終わるようなイメージがありますが、

実際は当時、現人神であった天皇は政治に口を出すことなく、
映画でも、天皇のご聖断に対し、憲法違反ではないか。
というセリフもあります。

そうなのです。
今も昔も天皇は政治の上では象徴的な役割をもっている
のです。これも当時の歴史を知らないと分かりません。

映画では分かりにくかったのですが、
堤真一演じる内閣書記官長が
戦争終結に向けた各種プロセスを合法的に乗り越え、
ポツダム宣言受託、そして玉音放送の文章作りに入ります。

有名な玉音放送も、なんとなく、
昭和天皇が自分で文章を考え、
そして放送したようなイメージがありますが、
実際は内閣が一字一句を作成したことが
この映画を観て知ることが出来ました。

一般市民や現場の兵士の事を考え、
言葉を選んで行くのです。


そんな緊迫した政治状況なのですが、
一方では役所広司さんは淡々と家庭生活も送り、
娘の結婚式を挙げたりしています。

昭和天皇が、ホテルは大丈夫か?と、
阿南大臣に聞くシーンなども印象的だったのですが、
案外普通の生活と激しい終戦工作の両輪を表現しながら
映画は進んで行きます。

このように、私生活と政治の世界の両方を描くことで、
映画のシーンはより身近に感じられ、
引き込まれるような演出と成っています。

そして無事、玉音の文章が決まり、
昭和天皇が録音を終えます。

そんな8月14日の晩に、放送を止めようとする
クーデターが起きます。

映画では、伏線として、
東条英機元首相が陸軍参謀本部に押しかけ、
天皇や国体を守るという事は何か。
と若手将校にけしかけていきます。

昭和天皇の言葉よりも、
長い目で見て、日本の国体・歴史を守ることが、
真の愛国心である。というような論理です。

この様子を見ると、
陸軍参謀本部にしても、
首都を守る陸軍にしても、ほぼ無傷な人達です。

確かに東京は空襲で焼け野原になっているのですが、
彼らからしてみれば、日本が負け戦をして追い詰められて
いることが体感として無かったのではないかと感じました。


そして、松坂桃李さん演じる、
畑中健二少佐を首謀とするクーデターが発生するのです。

しかし軍隊が動くためには、
様々な手続き(つまり判子)が必要なのです。

組織・官僚機構である軍隊は、
数名の士官が結託するだけでは軍隊は動かないのです。
重要な人物を説得し、
また説得に失敗すると殺したりして、
嘘の命令を発するのです。

NHKを占拠し、架空の放送を流そうとするシーンなど
が心に残りましたが、
結局クーデターは失敗し、
首謀者二人は皇居前で、拳銃で自殺します。

畑中健二少佐が捕まえられたあとだったので、
誰もいない皇居前で自殺と云うことで、
若干不自然さが残ったのですが、

このクーデターの様子を見て、
軍隊というのは時に大きな力を持つ、
恐ろしいものだと感じました。

つまり、陸軍大臣天皇でさえ統制が効かなくなる
ことがあるのです。
もちろん世界の歴史では王族が襲われてしまった
ことは普通にあるのですが、
日本には命がけで、天皇つまり国体を守ろうという
人達が大勢いたということです。

このとき阿南大臣は、
クーデターを知りつつも、そのうち収まるよ。
とのんきに、淡々と腹心の部下(娘婿?)と一晩中酒をのみ、
そして明け方切腹するのでした。

今となっては阿南大臣の本当の気持ちは誰も分からず、
議論も多いのですが、
戦争継続を主張しながらも、心中は昭和天皇の意向にそう、
終戦のため、行動していたように感じます。
実際、陸軍首脳部にも閣議ではボツダム宣言受諾反対に
なりそうだ。という嘘の電話をしたりして、
陸軍の暴発を押さえたりしています。

阿南大臣は、昭和天皇や、鈴木首相など、
多くの人達からの信頼が厚かったのです。


ちなみに、枢軸国として第二次世界大戦を戦った、
ドイツは、ヒットラー首相が自殺、体制崩壊し敗戦。
東西に分断されました。

日本は、様々なことが有ったにせよ、
軍隊や内閣や官僚組織などが最後まで機能し、
手続きを経て終戦を迎えました。
そして、戦前の多くの体制が現在も続いているわけです。

戦争で負けて無くなった国はない。
と映画の中のセリフであるのですが、

日本という国が残るために、淡々と敗戦処理ができたことは、
実は凄いことであることを、現代の私たちは知らなすぎます。

私はそれまで文献で知っていた終戦工作が、
この映画を観て改めて、どういった事が起きたのか、
映像とともに理解することが出来ました。

もちろん映画ですので、沢山の演出があるのだと
思いますが、それでも、終戦は凄いことだったのです。

どうしても、戦争というと、幾つかの戦闘や、
特攻隊や原爆などの悲劇に注目しがちですが、

終戦工作も一つの重要なトピックであり、
戦争に負けたということでなく、
このような形で終戦できたことに
日本人として誇りに感じても良いのではないか。
と感じた今日の一本です。


ドラマを見逃したら【YouTubeドラマ動画バンク】!

今日のアクセス:378,240