中村淳彦著「職業としてのAV女優」を読むと、AV女優の裸には、この国の社会問題が透けて見えます。

本日は、中村淳彦さん著

「職業としてのAV女優」

をご紹介します。

著者の中村淳彦さんは、
これまでも多くのAV女優さんを取材し記事にした、

「名前のない女達」シリーズ

などをAV女優さんの本を出版されています。

AV女優の実態を取材した書籍として評判が高く、
興味をそそるのですが、
これまで読んだ事は有りませんでした。

本日ご紹介する「職業としてのAV女優」も
本書も発売当時から様々なメディアで紹介され、
各書評も好評のようでした。


個人的に、
あまりこの手の本は読まないのですが、
内容が良いと云う評判を聞くと、
読んで見たくなります。

出版後の早い段階で購入したのですが、

とはいえ、
アダルト関連の本を読むことに、
なんとなく後ろめたいというか、
引いてしまう気持ちを感じ、

また、
通勤電車など公の場所で読むこともはばかられ、
しばらく積ん読になっていました。

本日仕事が早く終わり、
まとまった時間があったので、
読んで見たという次第です。


本書を読んでみると、

新書ですが、
中身は下手なビジネス本の単行本よりも
詰まっている印象でした。

非常に読み応えがあり、
読破するためにはそれなりに時間を要します。

どんなにAV女優さん好きでも、
読書慣れしていない方にとって、
本書を読み切るのはつらいと感じました。

・・かといって、
文章が読みにくいわけでは無く、
むしろ内容の重さや詳しさに、
いちいち驚き、心が動きます。


本書は、年間6千名ともいわれる
新人AV女優の多くは仕事が無い。
という話に始まり、

・AV女優の賃金や派遣事務所の様子
・AV女優の採用方法やビデオ製作会社の様子
・AV産業の変遷
・労働現場の様子やトラブル
・そしてAV女優引退後の様子

などを詳しく紹介しています。
書き方はなにかしらの学術的な文献や論文のように、
いたって冷静です。


冒頭から驚く点は、
AV女優は年間4千〜6千名も新しく生まれることです。

そして、実際に仕事があるのは、
3割〜半分程度といいますが、

こんなに沢山のAV女優が生まれるとは。
・・と驚いていると、

これらの新人AV女優の多くは、
個人応募から事務所面接などの審査を経て、
はじめてAV女優となるという話が登場します。

驚くのはその合格率で、
著者の推定では14%程度です。

つまり、AV女優に応募する8割以上の女性は
採用すらされないと云うことです。

裸と覚悟があれば、どんな女性でもAV女優ができる。
と思っている男性は一昔も二昔も前の思考です。


さらに驚くのは、その賃金はどんどん低下傾向にあり、
最近では、一回の出演が1万円(交通費は別)という
話を耳にしたそうです。

つまりAV女優をしてお金を稼げるのは、
ほんの一握りなのです。

これはちょっと衝撃的な話です。


こういった背景にあるのは、
長引く日本の不況も一因です。

昔はAVに出演し、
自分の裸が公になり世の中に出回ることでお金を得るのは、
女性にとっての最後の一線でしたが、

現在は長引く不況や、AV女優のステータスの向上からか、
ちょっとアルバイトのつもりで応募する女性が増えているそうです。

「今や誰がAV女優になってもおかしくない」

そんな時代のようです。

確かに、女性に限らず、
一人上京して都会で暮らすには、
仕事やバイトだけでは、殆ど無理かギリギリです。


そのようにして、応募のパイが広まると、

以前は綺麗であれば多少性格や社会性に
問題があっても採用された女性も、

現在は、外見が綺麗で可愛い上に、
性格や社会常識に加え
コミュニケーション上手な人柄が問われます。

つまり、
世間一般の基準で比べても、
かなり上質な女性でないと、
AV女優になることができないのです。

そして、
現在のAV女優になる女性は、
外見・人柄が良く社会性もしっかりしているので、
引退後は、幸せな暮らしをしている人も多いそうです。

例えば、結婚して家庭の主婦に収まったり、
(引退後に男を捕まえることは簡単で、
男性も外見と性格が良ければ、過去にこだわらない人が多い。
・・と書かれているが、私も同感です。)

また、看護師や介護士など、
しっかり稼いで生きていける資格を取る人も
多いのだそうです。

看護士の学費捻出のために、
AV女優になる人もいると聞くと、
なんという世の中なのかと思いますが・・。


もうひとつ知らなかった話としては、
レンタルVSセルが競争や、ビデ倫廃止、
SODの参入の話などです。

AVがレンタルからセルと呼ばれる個人売買
にビジネスが変化していく過程で、
内容はよりシビアになりました。

昔は中身を見ないレンタル屋さんがお客さん
だったものが、
現在は、自腹でお金を出す個人に代わったのです。

そこからのフィードバックの一つは、
過激な内容に走る路線です。

ある撮影で、過激な演出に
AV女優さんに大けがをさせ、
訴えられた関係者の多くは現在も刑務所に
入っているそうです。

この事件では、仕事と思って働いていた
撮影関係者も、突然逮捕され懲役となっています。

ビジネスにおける、
お客様思考をより進めただけと言えますが、
一歩間違うと犯罪になってしまうようなことは、
AV業界以外にもありそうな気はします。
(みんなでやれば怖くない的発想です。)


1980年代の終盤からずっとAVを見ているような
気がしますが、こういった難しい背景があることは
全く知りませんでした。

本書を読んでから見るAVというのは、
たんに女性の裸とか、エッチ映像をみて喜んでいた
のとは、全然別の映像表現に見えます。

そういった意味で、本書はエッチ映像が大好きで、
AVをみている人向きの本ではありません。

どちらかというと、社会風俗や政治経済、
貧困などの社会問題のカテゴリに入る本と思います。

もしかしたら、過去の著作と内容が被るかも
しれませんが、初めて読む私にとっては、
かなり重く心に残る一冊でした。

本当に厳しい世の中だと感じた今日の一冊です。



 
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