伊集院静著「悩むが花―大人の人生相談」は、相談に答える著者の緩急効いた文章が素晴らしいです。

昨日ネットを見ていたら、
日本人はランキング好き。
という記事を読みました。

週刊誌でランキングや、○×平均等の特集を
すると売り上げが伸びるのだそうです。

そういえば、私も年明けに、
「今年株価が上がりそうなランキング」
を特集した雑誌を買ってしまいましたし、

お給料ランキング・お小遣い平均、
平均貯金高、転職人気ランキング

・・など年中読んでいる気がします。

この理由として、
日本人が横並び感覚で、
他人が気になる国民性の為ではないかと、
解説されていました。

そしてもうひとつ、
他人のことが気になるといえば、
週刊誌の定番コーナーである、
お悩み相談です。

お馬鹿系な質問から医療やマネーまで
様々な相談コーナーがありますが、
これも他人が気になる日本人ウケの良い
記事かも知れません。

世の中の人は、こんな事で悩んでいるのか。
と様々なレベルで感慨を持つのですが、

その答えが痛快ですと、
大変面白い人気記事になるのです。


・・という訳で本日は、伊集院静さん著
 
 「悩むが花―大人の人生相談」

をご紹介します。

本書は、「週刊文集」の人気連載を
一冊にまとめたもので、
期間は、震災の前後1年ほどのようです。

週刊誌に寄せられる、
「悩み・人生相談」を、伊集院静さんが、
ばっさり切り捨てるスタイルで、
下世話ながら面白い一冊です。

内容は、

 夫が飲み過ぎで困っている、
 お年寄りが云うことを聞かない、
 いい歳をして小説とか芸術が分からない、
 友達が出来ない、
 彼女が家事をまったくしない、
 子供が大好きな犬が死んでしまった、
 これから水商売で働く、
 親友がガンになった、
・・・

お馬鹿な話しから、重い話しまで
様々なレベルの悩みに答えます。

お馬鹿系の話しは、
痛快なひと言でばっさり回答され、

重い系の話しは、著者の経験も踏まえた
重みのある回答が書かれます。


特に印象に残ったのは、
息子がパートナーを連れてきたが、
相手は男だった。

という相談に対し、
「いい息子さんじゃないか」
と話しを切り出し、そして、
「想像するより息子さんはちゃんと考えている」
と説き、
最後には若くして無くした、
伊集院さんの弟さんが、
「恋愛をしたのか気がかりだった」
と締めます。

短いながらも説得力があり、
そして涙を誘う展開はまさにプロの作家です。


もう一つ印象に残ったのは、
高校野球の予選で自分のエラーで負けてしまった。
仲間は気にするな。と云ってくれるけど、、

という相談に対し、
「そうはいうけど仲間も人間だから、
 あいつのせいで負けた。と心の中では思っているよ」

と落とした後に、

「でも、君は夏になると毎年思い出してもらえて
 幸せじゃないか。
 人生は失敗でしか成長しないのだから」
と人生を説きます。
やはり短い文章ながら納得感があり、
実に後味が良く、プロの作家と感じます。


・・と、こんな感じで、面白いので、
仕事の移動中に勢いで読み終えてしまいました。

大概の質問は私よりも大人の人のものですが、
他人はこんなことで悩んでいるんだな。
また、それに対する答えも覚えておきたい。
そんな気持ちで読みました。

そして、私もいつかはこのような文章が書きたい。
としみじみ思います。


本書は震災を挟んだ期間に書かれていることから、
後半は、震災の話題が連なります。

前半の抜けるような軽さに比べ、
後半の記事は重いのですが、それは、
自らも仙台に住み被災者となった経験や、
また身内を亡くした経験からくるものです。

それらが、単なる週刊誌のまとめ本ではない、
本書の価値を大きく上げているように感じます。


そして最後に今日も、
昨日と似たような事を書いてしまうのですが、

それは、
昨日は気持ちを片付けないまま死んでしまうと、
幽霊になってしまう。という話しを書きました。

本書では死について、
人間はある日突然、
自分の納得のいかない形で死んでしまう物だ。
それは、震災や事故でなくても、
病気で死期が分かっていたとしても同じであり、

死ぬことに対して本人は納得しているわけではない。
と云います。
つまり、気持ちは片付いていないのです。

例えば、ファッションに対しても、
突然死んだときの姿を意識する。
という話しもありますが、

こんな死生観もあるのだ。
そして納得感がある。

と感じました。


 「人生は残酷という瓦礫の上を歩くもんだ」
 「恋愛と貧乏は親戚だわね」
 ・・・

など、
心に染みる言葉も多々あり、
週刊誌のコーナーをまとめたという、
一見簡単な企画の中に、
人生の奥深さが詰まっていると感じた、今日の一冊です。


悩むが花

悩むが花


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