伊集院静著「それでも前へ進む」を読むと、伊集院さんの哀しみを乗り越える言葉が伝わって来ます。

東北出身の私は、
毎年だいたい盆暮れには、
東北新幹線に乗って帰省します。

たいてい、
夕方の東京発の新幹線に乗るのですが、
その前に駅の地下街で、
お気に入りの弁当を買い込みます。

そして出発して最初にすることは、
座席の前の小物入れに置かれた
JRの2つの冊子(雑誌)を読むことです。
(飛行機にはあるのですが、
東海道新幹線には無いですね。)

最初に読むのは、
比較的内容がお気軽な通販の雑誌です。
今のところ一度も購入したことが無いのですが、
面白い商品が沢山掲載されており参考になるので、
商品をひとつづつ、丁寧に読み込みます。

次に2冊目は車内雑誌「トランヴェール」を読みます。
旅行に関するエッセイや、
東北北関東など、JR東日本エリアを中心とした、
歴史や風土、観光地に関係する読み物が綴られています。
かなりしっかりした内容で読み応えがあります。

そして、2つの冊子を読み終え、
車内販売でお茶などを購入して、
晩ご飯の弁当を食べるのが、
私のルーチーンです。

あとは、到着するまで、
持ち込んだ本を数冊平行に読んで、
このブログのネタにします。


・・・という訳で本日は、伊集院静さん著

 「それでも前へ進む」

をご紹介します。

本書はJR東日本の雑誌「トランヴェール」の
2009年4月〜2011年3月までの連載を
第一部として編集し、
第二部として「それでも前に進む」という、
震災関連の書き下ろしを加えた内容です。

殆どの内容は震災前のものですが、
第二部に震災後の話題がありますので、
さほど古い印象はありません。

文中で、今年64歳になる、
という記述があったので、
確認のためお歳をWikiで調べてみると
確かに今年(2015年)の2月で65歳になった
ばっかりでした。

内容は、「大人の流儀」シリーズを読んでいる
方にとっては、どこかで読んだ事がある、
似たり寄ったりな印象もありますが、

JR東日本の新幹線(や特急電車)の
車内に置かれる冊子と言うことで、

※ネットでも読むことが出来ます。
 えきねっと(JR東日本)|トランヴェール|旅どきnet

帰省や東北地方への取材旅行の話題が
多く書かれています。

特に、子供が帰省することが、
親にとってどれだけ大事であるか。
嬉しいことであるか。
といった話しなどが心に残ります。

伊集院静さんのお父様は、
お正月は家族全員で迎えないと
とても機嫌が悪くなる方だったそうで、
若い頃はその理由が分からなかったが、
歳を取って理由がなんとなく、
理解できるようになったそうです。

親にとって年に一二度帰って来る子供の
顔色をを見て、
元気かどうか、しっかりやっているかどうか。
確認したい。という親心なのです。


他にも死にまつわる悲しい話題も印象的です。
伊集院さんにとって最大の悲しみは、
弟さんを失ったことです。

弟さんの死に関しては、
他の著書でも必須の話題です。
本書では、弟は自分より生きる価値があって、
弟が生き返るなら自分は半分死んでも良い。
と当時考えていた話しや、
母親が弟さんの遺体を見たときの描写が、
他の書籍よりも悲しみが深く伝わってくる
印象を持ちました。

また前妻夏目雅子さんの死の場面で
お金が無くてワインも飲ませられなかったことや、
その後伊集院静さん自身が、
アル中になってしまった話しなども書かれており、
他の本ではココまでかかれていたのかな。
と感じました。

本書を読みながら、
こんな辛い話しが、JRの新幹線の車内雑誌に
載ってよいのだろうか。
と感じたりもしました。

私は毎年必ず数回は、東北新幹線に乗る訳です。
本書中のどこかの文章は必ず読んでいるのですが、
あまり悲しい文章を読んだ記憶もなく、
きっと私が乗車した回は、お気楽な旅行記を紹介
している号だったかもしれません。


最後の文章に書かれるのは、
常に人は、ある程度の勾配のある道を
歩くべきだ。という内容です。

20代には20代の勾配があり、
60代には60代の勾配があります。

60歳を過ぎて伊集院さんは仕事を3倍に
増やしたそうです。
毎日のようになにかしら締め切りが来る
そうですが、どうにかこなしていると言います。

歳を取った作家が、仕事を3倍にも増やした
という話しは聞いたことがありませんが、

震災を経て、自分には何が残せるのか。
という問いが仕事にかき立てられている
のではないかと思います。


「人の死とは二度と会えないということであって、
 それ以上でもそれいかでもない」

「あなたはまだ若いから知らないでしょうが、
 哀しみにも終わりがあるのよ」

・・・など、
本書にも心に染みる言葉が沢山出てきます。

こうした言葉は頭では分かりますし、
物語に書く言葉として思いつくのは
簡単かもしれません。

必ずしも伊集院さんが考えた言葉ではなく、
誰かに言われた言葉だったりするのですが、

伊集院静さんは、大切な家族を2人も亡く、
東日本大震災も経験した作家ということで、
哀しみを経験した人に、
言葉を綴ることができる数少ない作家と思います。

そして、こうした言葉が、
人生の心の支えになるのだと感じる
今日の一冊です。


それでも前へ進む

それでも前へ進む


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